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【識者の眼】「外保連手術試案と実際の診療報酬との乖離」岩中 督

No.5028 (2020年09月05日発行) P.63

岩中 督 (外科系学会社会保険委員会連合会長、埼玉県病院事業管理者)

登録日: 2020-08-26

最終更新日: 2020-08-26

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外保連手術試案では、手術の技術度と外科医数、手術時間によって人件費が決められていることは、No.5016で述べた。手術試案は、4年に一度の実態調査で精緻化されていることより、外科医の目線でも納得できる技術料である。以前にも記した胃癌に対する「胃悪性腫瘍手術・幽門側切除術(腹腔鏡下)」は、技術度D、外科医数4名、手術時間6時間、協力看護師数2名のため、人件費の合計金額は110万1600円と計算される。さらに特殊縫合糸や内視鏡手術用ポートなどの償還できない医療材料費を定価で加えると、総額が143万1215円となる。一方で、実際の診療報酬では、「K655-2 2腹腔鏡下胃切除術(悪性腫瘍手術)」は64万1200円であり、手術試案人件費・診療報酬比率は172%、医療材料費を加えた手術試案・診療報酬比率は223%であり、その乖離幅は大きい。

手術試案人件費が診療報酬の150%以上の乖離を示す手術が今回改定直前でも約2000術式、200%以上の手術が約1000術式存在する。さらに2018年度改定で新規収載された「胃悪性腫瘍手術・幽門側切除術(ロボット支援下)」は、技術度D、外科医数3名、手術時間5時間で、人件費総額は88万5150円と腹腔鏡手術より廉価であるものの、償還できない医療材料を加えると、試案上の総額は153万8182円と高額になる。診療報酬上は、腹腔鏡手術と同額で64万1200円である。同手術では、償還できない医療材料費のみでも65万3032円で、診療報酬では全く賄えていない現実がある。

このように償還できない医療材料費の総額が、本来の診療報酬を超えている術式が約340術式存在し、厚生労働省とのヒアリングのたびにこれらの是正を要求してきた。主張はある程度理解していただき、人件費乖離幅の大きい手術、償還できない医療材料を多く必要とする手術を中心に、2016年度改定では301術式、2018年度改定では378術式、2020年度改定では126術式で増点された。まだまだ不十分ではあるが、以前にはなかなか応じてもらえなかったこれらの増点は、実態調査を行い、科学的根拠のもとに厚生労働省と意見交換を続けてきた成果といえよう。次稿では、外科医がどうしても納得できない同一手術野の複数手術の手術料について述べる。

岩中 督(外科系学会社会保険委員会連合会長、埼玉県病院事業管理者)[外保連]

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