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【識者の眼】「『PSA検診は不利益が大きい』との意見に対する日本泌尿器科学会の反論」伊藤一人

No.5028 (2020年09月05日発行) P.58

伊藤一人 (医療法人社団美心会黒沢病院病院長)

登録日: 2020-08-24

最終更新日: 2020-08-24

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今回は、No.5011で指摘したPSA検診に批判的な6つの意見のうち、4つ目の「PSA検診は利益に比べて、不利益が非常に大きいため、対策型検診として推奨しない」との反対意見に対する日本泌尿器科学会(日泌)の最新ガイドラインでの見解を解説します。

PSA検診は癌死低下効果が証明されましたが、日泌は、それだけではなく、利益・不利益バランスの評価が重要と考えています。死亡率低下効果が明らかな癌検診でも、検診介入による実生存年延長効果を、健常者と同等のQOLを維持した上での生存年である質調整生存年(QALY)に置き換えると、治療の合併症・治療に伴うQOL障害などの不利益のために、目減りします。

PSA検診の利益・不利益バランスは、欧州で行われた無作為化比較対照試験(ERSPC)のデータを基に1000人の仮想コホートを用いて、検診介入群と非介入群の詳細な比較により生涯のQALYの延長効果を検証した研究が2012年のNEJM誌に掲載されています。日泌のガイドラインはこれを最重要論文として取り上げました。55〜69歳の男性に生涯にわたり毎年PSA検診介入を行った場合、非介入群と比べて実生存年は1000人あたり73年延長すると推計されました。介入群は不必要な生検を受ける人が247人増加。癌診断数は非介入群が112人に対し、介入群は157人と増加し、この中に過剰診断例が含まれるので、これらは検診介入の不利益です。緩和治療移行人数は非介入群の40人に比べ、介入群では26人と35%減少。癌死数は非介入群の31人に比べ、介入群は22人と28%減少し、これらは検診介入の重要な利益です。一方、介入群では放射線治療や手術実施例が41人増加し、この中には過剰治療例が一定数おり、これは検診介入の不利益です。

これらの利益・不利益バランスを、検診受診、前立腺生検、癌診断、放射線療法、手術、監視療法、治療後の回復時期、緩和治療、癌終末期の各段階における健康水準の効用の推定と持続期間のデータを利用し、QALY延長効果を推計したところ、検診介入群は非介入群と比べ、1000人あたり中央値で56年もの延長効果が得られました。費用対効果比の検証は必要ですが、利益・不利益バランスは決して悪くありません。

伊藤一人(医療法人社団美心会黒沢病院病院長)[泌尿器科における新しい問題点や動き]

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