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皮膚瘙痒症はなぜ下腿に多いのか?

No.5026 (2020年08月22日発行) P.48

中原剛士  (九州大学大学院医学研究院 皮膚科学体表感知学講座准教授)

登録日: 2020-08-21

最終更新日: 2020-08-18

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冬季の乾燥による皮膚瘙痒症は,なぜ下腿に多いのでしょうか。その予防策とともにご教示下さい。(東京都 O)


【回答】

【乾燥しやすく物理的刺激が加わる機会が多い部位であるため。刺激の回避,外用薬の塗布などで対処する】

表皮の最外層にある角層は,皮膚バリア機能や水分保持能の多くを担っています。角層におけるバリア機能・水分保持能に重要な因子として,角層細胞間脂質と天然保湿因子,皮脂膜の3つがよく知られています。

角層は角質細胞とその間を埋める角層細胞間脂質より構成されます。角質細胞の細胞内はケラチンとフィラグリン,フィラグリン分解産物で満たされ,フィラグリンが角層中で分解されて産生される天然保湿因子は,角質細胞内の水分を保ち,角層の柔軟化に働きます。セラミド,コレステロール,脂肪酸で構成される角層細胞間脂質は,体内からの水分の蒸散や体外からの種々の物質の通過を防ぎ,角層の水分とバリア機能の保持に重要な役割を担っています。さらに,皮脂腺から分泌される皮脂は,汗とともに皮表を皮脂膜として覆い,皮膚からの水分蒸散を防ぐことにより角層の水分を増加させ角層に潤いを持たせると考えられています。

これらの因子が正常に働くことで表皮がバリアとして機能し,適切に水分が保持されて皮膚の恒常性が保たれていることになります。

身体各部位における表皮角層水分量を測定した研究では,冬季における角層水分量の減少は下腿外側において一番顕著であったと報告されています1)。このような乾燥した皮膚では痒みを感知する神経線維が,より皮膚表層まで伸長しており,痒みを感じやすくなっています。そして,乾燥皮膚に衣類の間擦などの物理的刺激が加わると強い痒みが生じます。特に高齢者の皮膚ではセラミドなどの細胞間脂質の減少,フィラグリンや天然保湿因子の減少がみられ,皮膚のバリア機能低下や乾燥につながります。

すなわち,下腿に皮膚瘙痒症が起こりやすいのは,もともとの身体部位としての乾燥しやすい性質がベースにあり,衣類の間擦や石鹸による強い洗浄などの物理的刺激が加わりやすいことが原因となっていると考えられます。

改善手段は①刺激を避ける生活指導,②保湿スキンケアが予防には重要であり,治療としてはそれらに加えて,③搔破により湿疹が生じた場合のステロイド外用薬を用いることになります。

①は,入浴時には湯の温度があまり高温にならないように気をつける,石鹸などの洗浄剤の使用は最小限にする,洗浄時にはこすらずやさしく手などで洗う,過度の暖房は使わない,などです。

②は,できるだけ入浴後速やかにヘパリン類似物質クリームなどの保湿薬を広めに外用するとよいでしょう。

③は,乾燥のみならず湿疹が明らかになった場合には,保湿などのスキンケアのみでは改善が難しいため,皮膚科を受診し適切なステロイド外用薬を外用することが必要になります。

【文献】

1) 吉国好道, 他:日皮会誌. 1983;93(5):491-5.

【回答者】

中原剛士 九州大学大学院医学研究院 皮膚科学体表感知学講座准教授

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