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【識者の眼】「市中病院内視鏡医師からみたピロリ除菌と40年後のBarrett食道癌?」渡邉一宏

No.5022 (2020年07月25日発行) P.56

渡邉一宏 (公立学校共済組合関東中央病院光学医療診療科部長)

登録日: 2020-07-13

最終更新日: 2020-07-13

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最近、話題のWHO(世界保健機関)は、1994年にIARC(国際がん研究機関)の報告からピロリ菌を胃癌の明確な発癌因子とした。そのピロリ除菌で胃癌発生は1/3に抑制される(Fukase K, et al:Lancet. 2008;372)。我々の地域でも胃癌撲滅のため適応あるピロリ除菌を徹底的に行っている。3次除菌の自費診療例は当科ホームページに示す。

現時点で除菌前後の胃癌発生に注意が必要だが、将来的にピロリ感染が減少して逆流性食道炎→Barrett食道(BE)→食道腺癌が各20年間隔で増えて行くという有名な欧米の仮説(Blaser MJ:J Infect Dis. 1999;179)は気になる。現在、胃食道逆流症(GERD)は北米で25%、日本は10%、食道癌における腺癌の割合は北米で60%、日本は6% (残りは扁平上皮癌)と日本は少ない。この仮説発表から既に20年経過している。多くの人が解説するように、日本でもピロリ菌と胃癌が減少し、Barrett食道腺癌が激増するのだろうか?しかしこの欧米モデルを日本に当てはめても20年→40年後と遅延してきている。ピロリ除菌と除菌後GERDや、GERDとBEの関連性すら最近20年間で意見相反(あっても微増)の状態であり、日本人は、このまま食道癌まで爆発的な増加はしないのかもしれない。その予防において2018年に英国を中心とした大規模な研究(AspECT)で、8.9年の倍量PPI+アスピリンの組み合わせのみが食道高度異形成を有意に減少したと報告があった(Jankowski JAZ, et al:Lancet. 2018;392)。将来的に日本でも参考になる可能性もあり、進行中のスタチンとアスピリンの組み合わせ試験の結果も待ちたい。

2020年3月までは、私も毎週、Barrett食道癌に内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)をしており、確かに現場の体感ではピロリ減少の一方で、Barrett食道癌が存在している。しかし、癌死亡者数で食道癌は米国1万6000>日本1万1000、胃癌は米国1万1000<日本4万5000(米国2020予測、日本2019)から、ピロリ除菌と内視鏡検診による胃癌撲滅(浅香正博:日消誌. 2010;107)が今は必要だが、このコロナ禍で内視鏡検診数は激減している。

渡邉一宏(公立学校共済組合関東中央病院光学医療診療科部長)[内視鏡医療における地域貢献][上部消化管内視鏡止血⑥]

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