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【識者の眼】「日本の検査は世界標準か」渡辺晋一

No.5023 (2020年08月01日発行) P.57

渡辺晋一 (帝京大学名誉教授)

登録日: 2020-07-03

最終更新日: 2020-07-03

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新型コロナウイルスの政府の専門家会議が廃止され、ますます医学的根拠が乏しい感染症対策になる懸念がある。経済を回すためにも定期的なPCR検査をし、隔離すべき人を探す必要がある。中国のように20〜30名を一括してPCR検査をし、陽性者がいたグループだけを個々にPCR検査をすれば検査数は少なくてすむ。しかし日本は一貫して世界標準のPCR検査に後ろ向きで、日本で開発された抗原検査には前向きである。ただし抗原検査は精度に問題があり、世界標準の検査法にはなっていない。

日本の検査キットの問題は他にもある。例えば梅毒血清反応は自動化法に変わり、多くの検査キットが認可されたが、メーカーによるばらつきが多い。また白癬菌抗原キットは足白癬には使えないが、爪白癬に使えるという代物で、しかも世界標準の診断法である直接鏡検結果と相関性がなかった1)

このように日本には独特の検査がある。例えばKL-6は間質性肺炎の検査とされているが、海外にはない。確かにKL-6は間質性肺炎と相関するが、最終的にはX線やCT検査で確認しなければならない。そのため、海外では患者への問診と、打聴診という基本的診察を行い、疑いがあればX線やCT検査を行う。アトピー性皮膚炎の皮疹と血中のTARCの値は相関するとして、日本ではTARC検査が保険適用となったが、米国の皮膚科学会は皮疹を観察する以上の価値はないとしている。また日米欧のアレルギー学会は、抗原特異的IgGは食物アレルギーの診断に無用としている。さらに米国皮膚科学会では、アトピー性皮膚炎患者に抗原特異的IgE検査をルーチンに行うべきではないと提言している。しかし日本ではアトピー性皮膚炎や蕁麻疹などでこの検査が汎用され、医療費増大の要因になっている。このように日本は検査天国で、出来高払いの保険制度では、患者を治すより、検査を行った方が病院の収入が上がる。

実際露出部位の酷い湿疹で、20年間大学病院を含む多くの病院で、皮膚生検などの検査をしたが治らず、私を受診した患者がいた2)。詳しく問診すると葬儀業であることがわかり、菊皮膚炎を疑った。パッチテストで診断を確定し、菊に触れないようにしたところ、20年間悩んでいた皮膚病は消失し、病院への出費もなくなった。

【文献】

1)渡辺晋一:Med Mycol J. 2018;59:J3-4.

2)渡辺晋一:学会では教えてくれないアトピー性皮膚炎の正しい治療法. 日本医事新報社, 2019.

渡辺晋一(帝京大学名誉教授)[#検査キット]

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