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【識者の眼】「旧優生保護法報告書が突きつける現母体保護法の問題」岡本悦司

No.5020 (2020年07月11日発行) P.66

岡本悦司 (福知山公立大学地域経営学部長)

登録日: 2020-07-01

最終更新日: 2020-07-01

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日本医学会連合の「旧優生保護法の検証のための検討会」が6月25日に報告書を公表した(https://www.jmsf.or.jp/info004.html)。歴史を振り返り今後のあるべき姿勢を提言する、という副題のこの報告書は、強制不妊手術が推進された経緯、それに関与あるいは放置した医学界の怠慢を膨大な文献とヒアリングで検証したもので歴史学的にも貴重な文献といえる。だが、報告書が結論するのは、過去の振り返りにとどまらず、現在そして未来の問題について「学会横断的な医学的・医療的判断を検討する組織」の提言である。

現在の問題で喫緊のものは、出生前診断とそれに伴う選択的中絶であろう。問題の核心は、認可外施設の増加やカウンセリング不備などではなく、選択的中絶をめぐる倫理問題にある。「優生思想と医療が組み合わさり強制不妊手術につながっていったことからすると、優生思想と結びつけられやすい医療には慎重な判断が必要」と報告書(15頁)も指摘するように、強制不妊手術と同様、出生前診断に対しても否定的な姿勢がうかがえる。

だが、選択的中絶は倫理以前の法的問題である。現母体保護法は「経済的理由」による中絶は認めているが胎児の障害を理由とする中絶は認めていないからだ。1974年には、優生保護法への、いわゆる胎児条項の導入が国会で激論となり結局見送られている(かかる重要な事実が報告書では全く触れられていない)。もし母体保護法が選択的中絶を容認していないのなら、それは刑法上の堕胎罪を構成する。

報告書の結論に従えば、違法中絶の横行を我々は看過してはならないことになる。そろそろ、現母体保護法そのものを、妊婦の自己決定権(リプロダクティブ・ライツ)を尊重したものに変える(中絶の理由を限定しない)べき時ではないか。20XX年「旧母体保護法下における違法中絶の検証」報告書を再び突きつけられるような愚は、繰り返してはならない。

岡本悦司(福知山公立大学地域経営学部長)[妊婦の自己決定権]

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