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【識者の眼】「COVID-19禍で炙り出された医薬品の安定供給確保の課題」安部好弘

No.5020 (2020年07月11日発行) P.65

安部好弘 (日本薬剤師会副会長)

登録日: 2020-06-30

最終更新日: 2020-06-30

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックが世界を席巻する中、直接・間接的な医療崩壊の危機が懸念されている。その要因の一つとして、必須な医薬品の供給が停止してしまうリスクが挙げられる。一昨年、セファゾリン注の供給が滞り、医療現場に大きな混乱を起こしたことは記憶に新しい。原料であるTAA(テトラゾール酢酸)の供給を中国の一企業に依存していたため、環境規制の問題で同社が製造停止に陥った際に代替供給できるルートがなかったことが原因である。臨床上重要な医薬品であっても、長期収載品や後発医薬品など公定価格が抑えられている医薬品の場合、医薬品原料・中間体・原薬などの供給について、製造コストを抑えることができる国々(中国、韓国、インドなど)からの輸入に依存している割合が約6割と高くなっている。COVID-19対策で、海外での企業活動の停止や流通経路の寸断などが実施されれば、セファゾリン同様の混乱がより大きなスケールで起きてしまうことが改めて炙り出されたことになる。

米国では、原薬などの8割以上を海外からの供給に依存している状況を国家的なリスクと捉え、連邦保健福祉省が巨額の予算を投じて、必須な医薬品・ワクチンを米国内での製造に回帰させるインフラの整備を進めているという報道があった。また、米国議会では「米国の医薬品供給網を中国から護る法律」の法案が提出されているという。これらの対応は、医療、医薬品産業、雇用に対する国内政策であると共に、広い意味での国家の防衛対策でもあろう。

我が国でも、2020年3月より、「医療用医薬品の安定確保に関する関係者会議」が発足して議論が始まっている。COVID-19禍を機に、世界に冠たる公的医療保険制度をさらに充実したものとすることに加え、国防的な観点も踏まえて、国民にとって必須な医薬品の安定供給体制を官民挙げて構築しなければならない。

安部好弘(日本薬剤師会副会長)[薬事・薬剤師]

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