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【識者の眼】「総合診療におけるダブルボードの意味(2)」草場鉄周

No.5021 (2020年07月18日発行) P.61

草場鉄周 (日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)

登録日: 2020-06-29

最終更新日: 2020-06-29

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(N.5020の続き)内科と総合診療の安易なダブルボードが総合診療領域の弱体化につながる可能性がある。その三つの理由のうち、二つ目は、たとえある程度の経験を積んだベテラン内科医が総合診療専門医の資格をダブルボードで取得したとしても、40代、50代で医師の確保が困難な地方に向かう可能性があるか、ということである。おそらく家庭の事情もあり、個人で高い理想を持っていても異動は容易ではない。大都市部での開業という選択はあっても、地方勤務にはかなり高いハードルがあるのではないだろうか。これは、若手内科医がダブルボードで総合診療専門医資格を取得した場合も同じことで、自らのサブスペシャルティ領域の経験を積み上げる意味でも郡部やへき地に行くのは失うものが大きいであろう。

三つ目は、内科か総合診療科か、迷っている研修医がいた場合、後から容易に取得できる総合診療専門研修を最初に選ぶ意義は相対的に落ち、まずは内科領域のサブスペ資格を取得し、必要になったら総合診療の資格を最小限の努力でついでに取得するというスタイルが優勢になるのではないだろうか。結局、総合診療を自らの専門領域と定めて地域に貢献したいという強い意志を持つ専攻医しか残らない状況となる。

以上、三つの理由をまとめると、ハードルの低いダブルボード制度の構築は、確かに資格を一つでも多く持ちたい内科医が総合診療専門医の資格を取得することによって専門医数の若干の増加につながるかもしれないが、彼らが郡部やへき地に向かうことを期待することは難しい。その一方、最初から総合診療専門研修を受ける意志を持つ専攻医の数が減ることによって、結局は当初に提示された目標の達成にはつながらないのみならず、領域の独自性や魅力が失われるのではないかと予想する。

そもそも総合診療専門医の養成は「従来の領域別専門医が『深さ』が特徴であるのに対し、総合診療専門医は『扱う問題の広さと多様性』が特徴であり、専門医の一つとして基本領域に加えるべきである」という論点からスタートしている。決して医師少数地域の医療拡充の政策として構築されたわけではない。制度の目的がいつの間にか差し替えられ、数を増やすことに力点が置かれ、独自の領域として他の専門医資格に伍する質を追求するという姿勢が廃棄されたことが問題の根源にある。

へき地・郡部の医療の充実は全領域の医師が取り組むべき課題である。専門医制度を医師の偏在という医療政策の過失の補填として運営する姿勢は廃し、プロフェッショナリズムの観点から、各領域でグローバルなレベルを維持する専門医を厳しく養成する姿勢に回帰すべきである。総合診療専門医制度を運営する日本専門医機構の原点回帰を強く望む。

草場鉄周(日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)[総合診療/家庭医療]

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