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【識者の眼】「産婦健診の取り組み:神奈川県座間市の場合」久保隆彦

No.5019 (2020年07月04日発行) P.62

久保隆彦 (代田産婦人科名誉院長)

登録日: 2020-06-15

最終更新日: 2020-06-15

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2015年に私は、ナショナルセンターから神奈川県座間市唯一の分娩施設へ異動した。市から妊産褥婦のメンタルヘルス支援事業への指導依頼があったので、保健師、助産師、産婦人科医、精神科医、小児科医、行政などにわが国の妊産婦支援事業の問題点と重要性、実施法について講演した。その上で、どのようなことが座間市で実施可能かを協議した。

既に座間市では、母子手帳発行時に「育児支援チェックリスト」、赤ちゃん訪問時に「赤ちゃんへの気持ち質問票」を使用し妊産褥婦のメンタルヘルスチェックは行っていたが、その後のフォローアップシステムはなく支援体制は不十分であった。

まず、院内体制としては、初診時に私の作成した「妊娠リスクスコア」で妊婦の背景を評価し、助産師外来でエジンバラ産後うつスコア(EPDS)を採点し様々な不安を表出させた。妊婦健診では、メンタルヘルスに留意して行うようにした。

さらに、座間市の公的補助による「産婦健診」と「産後デイケア」を2018年8月より開始した。第4回(No.5010)でも触れた「産婦健診」の問題点に私なりに対応した。「産婦健診」の評価はEPDS(アンケート1)だけではなく久保班で産後3カ月のメンタルヘルス障害に相関する2週間、1カ月時点の因子から私が作成した問診票(アンケート2)も併用した。EPDSは総得点ではなく、因子毎に総合的に評価し、アンケート1・2を参考に、産婦を低リスク群、中等リスク軽症群、中等リスク中等症群、高リスク群に分類した。中等症群以上は連絡票を作成し、行政に送付し、注意深い赤ちゃん訪問の資料とした。高リスク群は電話で行政に連絡し、出来る限り早期の訪問と精神科受診を指示することを行政と共有した。連絡票群は担当地区保健師が問題解決するまでフォローし、当院の医師・助産師と連絡を密にとっている。

また、メンタルヘルス支援を目的に、希望する産婦には産後4カ月間に7回まで母子の産後デイケアを1万5000円(1万3500円を市が補助、本人負担は1500円)で週2回実施している。赤ちゃんを助産師さんが看ている間に、乳房ケア、オイルトリートメント、睡眠など本人の希望に従い、肉体的・精神的な評価と支援を実施し、ほぼ予約は埋まっている。

このように妊娠初期から分娩・育児期の母子のメンタルヘルスを座間市では継続的に支援し、現在、精神科医、小児科医を含む地域ネットワーク構築に取り組んでいる。

久保隆彦(代田産婦人科名誉院長)[周産期医療(産科、新生児医療)]

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