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【識者の眼】「今改めてインバウンド医療の重要性」松田智大

No.5018 (2020年06月27日発行) P.62

松田智大 (国立がん研究センター企画戦略局国際戦略室長)

登録日: 2020-06-11

最終更新日: 2020-06-11

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急速な高齢化は、アジアのLMIC(Low and Middle Income Countries)においても大きな転換期となり、感染症に加えて非感染症疾患(NCDs)が負担となっていることは本欄でお伝えしてきた。日本では、こうしたアジア諸国に先行して疾患対策を実施してきたのみならず、超高齢社会を経験していることから、培った高水準の医療サービスおよび医療機器等を提供し、アジア地域の健康改善に貢献していくことは道義的に必要なことである。日本では同時に、アジア諸国の医療需要をインバウンドとして取り込むことで、癌医療そのものを初めとして、関連する製薬、医療機器産業を活性化させることができる。むしろ、人口が減少傾向に転じた現状、そうした連携がなければ、国内の医療水準や産業を維持することも難しい。

「健康・医療戦略」(2020年3月27日閣議決定)においても、日本の医療の国際化が謳われ、医療インバウンドおよび訪日外国人への適切な医療提供を一体的に推進すると明記されている。経済産業省では、2010年から複数回、全国約9500の医療機関に対して調査を実施している。それによると、海外からの患者受入意向は増加しており、ほぼ半数は受入経験があることを報告している。国立がん研究センターでは、中国等海外からの癌医療従事者の研修受け入れは年間約400名に上るが、患者の受入に関して、必ずしも先頭を切れていない。健康保険や医療費の支払い担保の確認といった事務的な負担に加え、やはり、言葉や文化の壁に端を発する臨床現場での労力と時間の負担が、その背景にある。であれば、何をどのようにすれば、課題を克服できるのか、早急に明らかにして対策すべきであろう。

本シリーズに一貫したテーマであるが、アジア諸国への癌医療協力は、日本の癌医療の維持と経済成長にも資するもので、避けては通れないと考える。

松田智大(国立がん研究センター企画戦略局国際戦略室長)[アジアの癌医療研究連携 ]

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