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【識者の眼】「医療者へのCOVID-19差別」倉原 優

No.5016 (2020年06月13日発行) P.55

倉原 優 (国立病院機構近畿中央呼吸器センター内科)

登録日: 2020-06-01

最終更新日: 2020-06-01

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大阪のとある病院を新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の専属病院にするというニュースが流れ、衝撃が走った。少なくとも私が医師になってから、そういうアイディアを初めて耳にしたし、何より勤務している職員は大変だろうなと思ったからだ。そして、必ずそういう人たちを差別する人たちが出てくると予想していた。

案の定、タクシーやバスに乗車することを拒否された体験談や、医療従事者の子供の保育に対して忌避的な対応をする園があったとSNSで目にし、感染症とは本当に差別の歴史なのだと痛感した。COVID-19の集中治療室に勤務していた私の知り合いのナースの一人が、差別に耐え切れずに辞めてしまった。もうナースに戻ることはないと言っている。

新型コロナウイルスの致死率がもっと高ければ、あるいは感染性がそこまで強くなければ、こんな事態にはならなかったのかもしれない。この“中途半端”としか表現しようのない致死率と感染性は、我々人間の悪しき部分を露呈させてしまった。私は無神論者だが、もし神様がいるなら、これは我々人間に与えた試練なのかもしれない。自分とは異なる他者を排除しようする、脆弱な人間の本能をついてくる、いやらしいウイルスだ。

私の友人に、「あそこの私立の小学校に入学させよう」と受験勉強を頑張っているママ友ナースがいた。医学部への輩出も多い名門小学校で、受験の倍率も高かった。しかし、その学校では「医療従事者の子供は、どうやら『あずかり教室』の対象外となっている」という酷い対応をしていることがわかり、彼女は「こんな学校には子供は行かせられない」とCOVID-19パンデミックを契機に受験しないことを決断したそうだ。友人は、むしろ胸をなでおろしていた。医療従事者に対して無理解な学校に通わせなくて正解だったかもしれない。

倉原 優(国立病院機構近畿中央呼吸器センター内科)[医療SNS]

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