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【識者の眼】「ショック状態の医療機関に公的資金の投入を」畑山 博

No.5015 (2020年06月06日発行) P.58

畑山 博 (医療法人財団足立病院理事長/社会福祉法人あだち福祉会理事長)

登録日: 2020-05-27

最終更新日: 2020-05-27

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ほとんどの医師が、一生の間に何度か経験するであろう患者のショック状態。パニックになって何も覚えてなくても、ABCABCと念仏のように唱えながら、気道確保、呼吸、血液循環維持…と考えているうちに、大声で「挿管の用意!酸素マスク!点滴取って!救急セット出して!」となるはずです。この対応を誤ると、患者を取り返しのつかない状態にしてしまいますし、後々、処置が正しかったかどうか記録を調べられることにもなりかねません。

もちろん、ショック状態が起こるのは医療だけではありません。例えば、リーマンショック。米国のリーマンブラザーズが破綻したことで起こった世界の金融市場の混乱です。国は、企業にお金を貸し渋る銀行に多額の税金を注入しました。銀行を守ることで、日本経済を守ろうとしたのです。東日本大震災によるショックも同様です。福島第一原発がメルトダウンを起こした時も、まず政府は東京電力が潰れることを防ぐために、多額の公的資金を投入しました。これも、もし東京電力が潰れるようなことがあると、関東全域に電力供給が出来ない事態が起こるだけでなく、今後何十年も続く廃炉事業を続ける事が出来ないと考えたからで、やむを得ないのかもしれません。

そして、新型コロナウイルスによるパンデミック。ここで政府がやるべきは、感染症対策の専門家をトップに据えて、いかに発症者を少なくし、いかに医療体制を維持し、いかに死者を出さないかですし、そのためには、医療機関に公的資金を投入すべきであったはずです。でも実際は、感染症の専門家会議が招集されたのは、かなり後になってからであり、コロナ対策のトップは経済閣僚が兼ねるという始末。しかも、コロナ患者を受け入れて、経営が苦しくなっている病院への公的資金の投入は今現在ありません。一時的に持ち直しても、その後の治療次第では、再度起こるのがショックです。そして、再度ショックが起こると、患者はかなり厳しい状態になります。そう考えると、経済の再建も観光客の誘致も必要ですが、次のコロナウイルス感染によるショックに備えて最も必要なのは、医療体制維持のための医療機関への公的資金投入ではないでしょうか。

畑山 博(医療法人財団足立病院理事長/社会福祉法人あだち福祉会理事長)[新型コロナウイルス感染症]

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