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【識者の眼】「ACP(3):切り出すタイミング」杉浦敏之

No.5016 (2020年06月13日発行) P.60

杉浦敏之 (杉浦医院理事長)

登録日: 2020-05-19

最終更新日: 2020-05-19

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ACP(advance care planning)を行うことが日常医療で推奨されているが、実際はいつACPを切り出したらよいか、と多くの市民や医療従事者から質問される。確かに一念発起して家族の前で、自分がもしもの時にどうしたいかと話し始めると、「そんな縁起でもないことは話さないでくれ」とさえぎられてしまうことが多いのではないだろうか。患者にACPを切り出すタイミングが難しいと話す医療従事者も多い。そもそもまだ元気なうちに医療従事者を交えて、自分が重大な疾患にかかった時の治療方針など話し合うことなどできるのであろうか。

最近、通院している患者やその家族と「老い」「介護」そして「死」について話し合うことが多くなってきた。そのなかで、最近は、他人に迷惑をかけずに死にたいと訴える患者が多くなった。1回あたりの時間は短いが、来院のたびにそれらの訴えに耳を傾け、率直に話し合っているといつの間にかACP的なものが形成されていることがある。繰り返し同一の患者と接することができる開業医ならではの方法といえる。また、病院では入院時にある程度のACPのアウトラインになるようなアンケートを本人と家族で相談しながら書いてもらい、それをもとにACPを勧める方法もあり、すでに実践している施設がある。「入院」という、人生の転機を契機とするのは理にかなった方法である。在宅医療の導入時にも同様のことが行えるであろう。まだそのような機会のない一般の市民であれば、「遺産」という、自分が健康な時もおそらくは子孫たちが関心を持つ事柄をネタにACPのきっかけとする大技(?)も可能かもしれない。

昨今新型コロナウイルスの流行が話題となっている。ウイルスに感染すれば死ぬかもしれないというイメージを持つ人は年齢を問わず多いと思う。ACPのきっかけは「死」をイメージすることに始まるといっても過言ではない。国民一人一人が「死」をイメージすることがACP普及の不可欠な要因である。コロナウイルスという、人類にとって厄介な病魔がACP普及のきっかけになれば「不幸中の幸い」ととらえることができるようにも思う。

杉浦敏之(杉浦医院理事長)[人生の最終段階における医療④]

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