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【識者の眼】「HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか(4):ワクチン接種と疼痛」奥山伸彦

No.5015 (2020年06月06日発行) P.59

奥山伸彦 (JR東京総合病院顧問)

登録日: 2020-05-18

最終更新日: 2020-05-18

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HPVワクチンは、標準的に三角筋に筋肉注射する。不活化ワクチンは免疫賦活活性が低いためアジュバントなどが添加されているが、その刺激性のために皮下ではなく筋肉注射が選択されている。接種部位は、上腕外側、肩峰から3横指下が目安だが、その上に肩関節包、下に腋窩神経三角筋枝が近接していることに注意が必要で、特に針の刺入時の強い痛みは神経を損傷している可能性があり、その際は直ちに抜いて反対側の腕に刺し替える必要がある。

皮膚、皮下組織を貫く痛みは軽度とされるが、痛みに対する感受性と不安は個人差があるので、手順を簡単に説明した上で、優しく「じゃ、注射します」と声をかけ、刺入後「痛みや痺れはないですか」と確認し、「今度何年生になるの?」などと注意をそらしながらゆっくり注入し、注射後は強く揉まず、軽く圧迫する。「痛くないから大丈夫」とは言わない(WHOガイドラインから)。迷走神経反射の既往がある場合は、仰臥位で緊張を緩める方法もあり、刺入時の痛みを緩和するために局所麻酔の軟膏なども使用可能である。

接種直後から続く痛みには、薬液の刺激で組織が損傷されることで発生する侵害受容性疼痛と、神経を直接損傷した場合に発生する神経障害性疼痛とがある。通常、いずれも保存的にみて徐々に改善し、最大数週間で軽快する。その後も痛みが遷延し、さらに下肢など接種部位と異なる部位の痛みが拡大する場合は、かつては除外診断的に心因性疼痛と分類されてきた。

そもそも末梢の組織障害由来の疼痛は、脊髄視床路を経て、視床から島皮質、前帯状回、前頭皮質、感覚皮質、扁桃・海馬などのpain matrixの活性化を反映する。この神経ネットワークは、刺激の弁別に情動や認知、記憶が複雑に関係していることを示しているが、慢性疼痛の多くでは、視床の活動はむしろ抑制的で、情動と認知に関わる前帯状回、前頭皮質が活性化されていることがfMRIなどで証明されている。つまり、幻肢痛など病理的存在そのものがない痛みでも指摘されているように、必ずしも末梢に病変が存在しなくても疼痛は出現することを意味している。そこには、病理的には神経系の変化(中枢神経系の感受性の異常亢進、シナプス・受容体の変化)が推定され、機能的には情動の関与(疼痛の不安が増幅し、不安への支持を求める情動)が反映していると考えられている。

奥山伸彦(JR東京総合病院顧問)[小児科][HPVワクチン]

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