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【識者の眼】「日本の感染症対策は世界標準か?」渡辺晋一

No.5014 (2020年05月30日発行) P.55

渡辺晋一 (帝京大学名誉教授)

登録日: 2020-05-16

最終更新日: 2020-05-15

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既に当連載で述べているように(No.5011、5007、5003)、感染症対策の基本は①感染者の発見、②隔離、③治療である。ところが日本では①、②が抜けていた。今年2月時点に日本でも横浜のクルーズ船内の新型コロナウイルス感染症が問題になっているのにも関わらず、5月になってようやく検査体制を拡充するという話が出てきた。そもそも感染症対策の第一歩は感染者を探すことである。それにも関わらず、PCR検査を絞ってきたのはどのような理由からであろうか。

最近の大学病院では、院内感染を防ぐために広範囲にPCR検査を行っているが、それ以外の施設(特に介護施設など)での集団感染はどうなっているのであろうか。さらに風評被害を恐れて検査を受けない施設も少なくない。そのため専門家会議では実際の患者は氷山の一角だという。このような専門家会議が日本の感染対策の提言をしていることに私は空恐ろしさを感ずる。さらに専門家会議はPCR検査が増えないのはキャパシティーがないからだという。そもそもPCR検査の多くを厚生労働省管轄の国立感染症研究所や保健所に絞っていたことが問題である。既にPCR検査を受けられず、手遅れとなって死亡した人は何人もいるし、統計には出ていない不審死の患者もいる。政府は検査のキャパシティーを守ることの方が、国民の命を守ることより重要だと言うのであろうか。

また症状がない人の検査をしても意味がないと言う人がいる。症状がない人は感染源になるし、急変して死亡することもある。政府が患者を見つけ出す努力をしないで、国民に外出自粛を求めるのは、国民への責任転嫁である。

さらに問題なのは感染症対策の専門家と称される人の多くが、日本のPCR検査の少なさを擁護して、感染症対策の提言をしていないことである。PCR検査は民間の検査会社ばかりでなく、生物系の大学院生でもできる。検体採取は臨床検査技師も可能である。また日本と韓国や台湾との違いは、これらの国は重症急性呼吸器症候群(SARS)を経験して準備していたからだという。感染症対策の専門家であれば、対岸の火事ではなく、日本でも準備を整え、事あれば直ちに政府に感染症対策を提言するのが本当の専門家ではないのか。これが日本の医療がガラパゴス状態を脱却できない要因かもしれない。今まで日本の感染症対策に関する寄稿をしてきたが、一向に改善の兆しが見えず、意味がないようである。そのため次回からはその他の話題に切り替えることにする。

渡辺晋一(帝京大学名誉教授)[新型コロナウイルス感染症]

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