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【識者の眼】「発達障害児を障害者にしないために」石﨑優子

No.5014 (2020年05月30日発行) P.62

石﨑優子 (関西医科大学小児科学講座准教授)

登録日: 2020-05-16

最終更新日: 2020-05-15

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小児科領域で発達障害児の診療が拡がっている。経緯を振り返ると、2004年に「発達障害者支援法」において「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥・多動性障害など」を発達障害と位置づけ、2006年「学校教育法等の一部を改正する法律」の成立により、2007年から特別支援教育が実施されるようになった。その数は文部科学省(2012年)の調査で通常学級に在籍する児童生徒の約6.5%程度としている。

発達障害児は、就学前は1歳半健診や3歳児健診で発達の問題を指摘され、精密検査のために小児科へ、学齢期には発達支援に医療と教育の連携が必要とされるために小児科や児童精神科を受診する。

発達障害は生得的な脳の機能の問題であり、その診療の目標は他の疾患のように「病気を治す」ことではなく、その子の特性を生かす支援をすることにある。そして定型発達、つまり健常な発達という言葉があるが、定型発達ではないこと(非定型発達)=発達障害ではなく、非定形発達で適応行動に問題が生じ、不適応に陥ってはじめて発達障害とされる。それが「発達障害は個性か障害か」と言われる所以である。

一方で厚生労働省の展開する個々の障害特性に応じた発達障害者の就労支援には、「療育手帳」もしくは「精神障害者保健福祉手帳」が必要であるため、近年は成人後を見据えて就学前後の早い時期から「精神障害者保健福祉手帳」を取得する(もしくは行政から取得を勧められる)ことも多い。この手帳の申請・更新に診断書が必要であることも医療現場に発達障害児が増え続ける理由であろう。

筆者の元にも学校で支援を受けるために、あるいは手帳を取得するために受診されるケースが多いが、非定型発達は不適応に陥ってはじめて発達障害であることと、非定型発達児が社会に適応するために発達障害の診断を下すことの矛盾を感じざるを得ない。非定型発達を発達障害にしないのが支援のあるべき姿ではなかろうかと思う今日この頃である。

石﨑優子(関西医科大学小児科学講座准教授)[小児科医]

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