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【識者の眼】「『権威は悪だからいくらでも批判して良い』という意識は牽制されるべき」堀 有伸

No.5013 (2020年05月23日発行) P.65

堀 有伸 (ほりメンタルクリニック院長)

登録日: 2020-05-01

最終更新日: 2020-05-01

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前回の記事(No.5005)で私は、日本人の意識が深層において「右より」と「左より」の意識に分裂しているのではないか、という仮説を提示しました。私がその感覚を強めたのは、原発事故の影響についての議論に関わった経験を通じてです。「放射線被ばくによる健康への影響があるか」という問いに対しては、前提条件によって回答が異なるはずです。しかし残念ながら、2011年から本日に至るまで、被災地外で世間に流布する放射線についての議論は、「右より」の人は常に安全と語り、「左より」の人は常に危険と語るようなポジショントークに終始するものが多く、現実的に被災地の再建をどのように行うべきかという視座を見失っているものがほとんどでした。

今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)をめぐる話題と関連させると、PCR検査をめぐる議論において、「右よりは検査の拡大に反対」「左よりは徹底的に検査の拡大を求める」という分裂が生じてしまい、現実的な問題解決につながる議論が行われにくくなってしまったようです。私も、現在の状況よりはPCRを含む諸検査が実施できる体制が整備されることが望ましいだろうと「右より」の意見を批判したい一方で、無制限な検査の拡大を求める「左より」の意見にも反対します。原発事故と関連して深刻だと思ったのは、「権威寄りの存在は否定して構わない」という意識が強まると、電力会社や自治体の関係者はいくら攻撃しても構わないと考えているような言動が認められたことでした。地震や津波以上に、「人々から突き上げられた」体験が、強いトラウマ反応を引き起こしてしまった例を経験したこともあります。

「体制に近いものは責めても許される」という意識は牽制され、COVID-19と関連した業務を行う人々が、過剰な非難にさらされないことを願っています。そのような非難は結局、世間からの「左より」の人々への信頼を損なう結果になるでしょう。

堀 有伸(ほりメンタルクリニック院長)[新型コロナウイルス感染症

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