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【識者の眼】「社会的処方で患者さんの健康格差をなくそう」西村真紀

No.5009 (2020年04月25日発行) P.62

西村真紀 (川崎セツルメント診療所所長)

登録日: 2020-04-23

最終更新日: 2020-04-21

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第3回目はSDH(social determinants of health、健康の社会的決定要因)に対する社会的処方についてお話しします。患者さんの病気の原因をさかのぼっていくと本人の努力では解決できない社会的原因、すなわちSDHがあることをシリーズ第1回目(No.4996)でお話ししました。ではSDHに気づいたらどんな介入をすればいいのでしょうか? 疾患の生物学的治療に薬物処方があるように、SDHに対しては社会的処方(social prescribing)という概念がありイギリスを中心に実践されています。家庭医(general practitioner)が処方しリンクワーカーと呼ばれている人が社会資源につなぎます。社会資源としては趣味・運動・友だちづくりの場・自助グループなど、さまざまな団体があります。

社会的処方やリンクワーカーは日本ではまだ馴染みがない言葉ですが、私たちが知っているリンクワーカー的存在はソーシャルワーカー、地域包括支援センター、社会福祉協議会、保健所などでしょう。高齢者の場合は介護保険の申請によりケアマネジャーを通じて福祉サービスを導入することが多いと思います。貧困というSDHが原因でなかなか通院ができず病気や健康への知識も不足している親子を例に取ると、社会的処方としてはソーシャルワーカーにつなぐことで生活保護の申請や無料低額診療事業(後述)の紹介、その他さまざまな制度利用の援助をしてもらえます。また医療機関としては通院しやすい時間帯への誘導、薬価や検査の見直し、ワクチンキャッチアップ、院内の催しへのお誘い、子ども食堂や支援団体の催しへのお誘いなど、社会的処方も含む対応をすることでこの家族の病気が改善し健康を増進することができるでしょう。

社会的処方の効果のエビデンスはまだ少ないですが、イギリスの研究では、患者さんの「自信がつく」「うつや不安が減る」「健康的なライフスタイルになる」「社会的なつながりが増える」「医療費の削減につながる」といった報告があります。疾患発症率や死亡率の医学的アウトカムとの関連についての研究も進んでいるようですので、結果を期待したいと思います。

西村真紀(川崎セツルメント診療所所長)[SDH③][健康格差][会的処方]

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