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学会レポート─2020年国際脳卒中学会(ISC)[J-CLEAR通信(111)]

No.5005 (2020年03月28日発行) P.66

宇津貴史 (医学レポーター/J-CLEAR会員)

登録日: 2020-03-29

最終更新日: 2021-01-07

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2月19日から21日までロサンゼルス(米国)で開催された国際脳卒中学会(ISC)から、主に一般医家向けのトピックスを取り上げた。

TOPIC 1 アテローム動脈硬化性脳梗塞に対する積極的LDL-C低下療法は脳卒中を抑制する:TST試験フランスコホート解析

今回のISCでは,昨年の米国心臓病学会(AHA)にて報告されたTreat Stroke to Target(TST)試験から新たな解析が発表され,アテローム動脈硬化性脳梗塞に対する積極的LDLコレステロール(LDL-C)療法は,長期継続により脳卒中を抑制することが明らかになった。一方,脳梗塞と一過性脳虚血発作(TIA)では,積極的LDL-C療法の有用性が異なる可能性も示唆された。Late Breakingセッションで,Pierre Amarenco氏(パリ大学,フランス)が報告した。

TST試験の対象は,アテローム動脈硬化性疾患を認め,かつ3カ月以内の脳梗塞(修正ランキンスコア0~3)既往,あるいは15日以内のTIA既往を有する,フランスと韓国で登録された2860例である。スタチンを基礎薬として,LDL-C目標値「70mg/dL未満」群と「100mg/dL未満」群にランダム化され,追跡された(非盲検)。

すでにAHAで報告されたように,「70mg/dL未満」群では「100mg/dL未満」群に比べ,「虚血性脳血管障害,急性虚血性心イベント・心臓血管系死亡」(1次評価項目)リスクが,相対的に22%有意に減少していた1)。しかしその際,観察期間中央値が2.0年の韓国コホートでは,5.3年のフランスコホートと異なり,リスクの有意な低下を認めなかった(ただしコホート間に有意な交互作用なし)。短期間のスタチン治療では,有用性が十分に発揮されなかった可能性もある。

そこで研究者らは今回,長期追跡が可能だった,フランスコホート2148例のみの解析を試みた。平均年齢は65歳強,約7割が男性で,BMI中央値は26kg/m2,試験開始時のLDL-C平均値は140mg/dL弱だった。

試験開始後の到達LDL-C平均値は,「70mg/dL未満」群で66mg/dL,「100mg/dL未満」群で96mg/dLだった。血圧,HbA1c,喫煙率はいずれも,両群間に有意な差は認めなかった。

その結果,1次評価項目発生率は,「70mg/dL未満」群で9.6%と,「100mg/dL未満」群の12.9%に比べ,有意に低くなっていた(補正後ハザード比[HR]:0.74,95%信頼区間[CI]:0.57-0.95)。治療必要数(NNT)は31となる。

次に1次評価項目を項目別に比較すると,「心筋梗塞・冠血行再建術」(HR:0.66,95%CI:0.67-1.20)や「脳梗塞・TIA」(同0.83,0.64-1.08)では有意差を認めないものの,「70mg/dL未満」群におけるリスク減少傾向が認められた。一方,頸動脈・冠動脈血行再建術リスクに差はなかった(同1.01,0.75-1.36)。また「脳出血・脳梗塞」リスクは,「70mg/dL未満」群で有意に低かった(同0.72,0.54-0.96)。

また,興味深いことに,脳梗塞例とTIA例の間で,積極的LDL-C低下の有用性が異なっていた。すなわち,脳梗塞例では,「70mg/dL未満」群の1次評価項目HRが0.63(95%CI: 0.48-0.83)となっていたのに対し,TIA例では1.94(同0.94-4.03)だった(交互作用P=0.005)。

本試験におけるTIAの定義は,2009年のAHA/ASAステートメント2)に従い,画像上梗塞を認めないものに限られている(画像上陽性であれば,発作が短時間で消失しても「脳梗塞」)。Amarenco氏らはこの結果に驚くとともに,このようなTIAは虚血以外に起因する可能性があるため,今後この種の試験に登録すべきではないとの考えを示した。「TIA」の定義を再考するにも,興味深い結果ではないだろうか。

本試験はフランス政府,ならびに脳卒中サバイバー非営利団体(SOS‒Attaque Cérébrale Association)からの出資で行われ,Pfizer,Astra-Zeneca,Merckの各社からも条件なしの補助金を受けた。また患者登録が遅れたため,予定例数登録を待たず,早期中止となっている。

本結果は,学会報告翌日,Stroke誌にオンライン公開された3)

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