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【識者の眼】「COVID-19に際し、プライマリ・ケアが守るべきものを後輩と議論する」吉田 伸

No.5003 (2020年03月14日発行) P.60

吉田 伸 (飯塚病院総合診療科)

登録日: 2020-03-09

最終更新日: 2020-03-09

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が拡大している。この原稿を執筆している2020年2月28日にも、政府から小中高一斉休校が要請され、医療現場・介護現場だけでなく、各家庭と教育現場も対応に追われている。

自らも恐慌に陥れば、プライマリ・ケアの専門家たる家庭医(総合診療医)の矜恃を見失う。我々はいま、誰のために、何をしなければならないのだろうか。知識欲旺盛な後輩専攻医と、当直診療の合間に議論を繰り広げた。彼はすでにあらかたのCOVID-19関連論文に目を通している強者である。彼の意見からは、ここまで数ヶ月の医学的知見が指し示す、この新しいコロナウイルス感染の病像と、それに合った対応が次々と列挙される。

私の意見はこうだ。“感染が国内に広がった今、誰の何を守るか?”である。これはけっこうはっきりしていて、自施設では、以下の方々の肺炎死の予防が最優先である。

・外来のかかりつけ患者。特に高齢・多併存疾患・免疫不全のある方々

・90余名の病棟患者

・300名の在宅患者(居宅・施設)

・60余名の透析患者

これら患者の住まいを城に見立て、安全に籠城できるように門を守るのである。門番は病院なら我々医療者、施設なら介護スタッフ、家なら家族である。

門の守り方は、これまで人類が経験してきたパンデミックとの戦いから得られた医学知見を活用し、わかりやすく伝える。城内にウイルスを持ち込ませない、門番が発症したら休む、門番が交代できるよう人員に余裕を持たせる、そして主たる患者に必要な物資と、通常に近いケアと、人とのつながりを届け続ける。それを城の状況に合わせて微調整する。プライマリ・ケアの長所は、個々の城と門番のステータスに精通しているところだから、門を守りやすい。

ちなみにこの原稿を書き始めてから、筆者は暫く咳が出ていたので診療を数日休み、自宅待機して部屋に籠もっていたが、やはりとても辛かった。予防対策では特に社会的な隔絶が起きるので、限定されたなかで残った人のつながりを確かめられるようなケアが大切だと強調しておく。

WONCA(世界家庭医機構)の会長である香港大学、Donald Li教授は、世界中の家庭医に、COVID-19の対策は「First in,Last out」であると呼びかけている1)。家庭医は最初にコミュニティで感染の予防指導と状況把握にあたり、ピークがすぎたあとにもコミュニティの身体的・精神的なダメージのアフターケアにあたる。ここにはきっと、顕在化する貧困問題も入るだろう。

簡単なわけはない、でもこれをやらねばならない。チームで。コミュニティとともに。

【文献】

1) WONCA News, Donald Li, January 2020, cited on 28th February, 2020.

[https://www.globalfamilydoctor.com/News/DonaldLiontheCoronavirus.aspx?fbclid=IwAR0ytJ4Go3KDeRqm0AIdiMGBbN53yt2UPbjKmygMaCTDvTzvUYMQqjVW_0Q]

吉田 伸(飯塚病院総合診療科)[総合診療指導医奮闘記③]

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