株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「新型コロナウイルス感染症蔓延で思うこと─世界から遅れをとる日本の感染防御」渡辺晋一

No.5003 (2020年03月14日発行) P.63

渡辺晋一 (帝京大学名誉教授)

登録日: 2020-03-04

最終更新日: 2020-03-04

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

私は国際協力機構(JICA)の依頼で、15年ほど前からタイの国立皮膚科研究所で講義をしている。そこでわかったことは、日本の医療は東南アジア諸国より劣っていることである。確かに日本は病院数や医師数も多く、医療インフラは発達している。そのため日本では貧しい人も医療を受けることができる。しかし問題は、医療の質である。実際に日本では専門家と称される人は多いが、本当の専門家は少ない。そのため日本では世界標準治療ではなく、日本独特の治療であることが多い1)

今回の新型コロナウイルス感染症でも同様で、日本の感染防御が世界から信用されなくなったのは、横浜のクルーズ船内で感染が次々と拡大したことによる。船内にいる人が、手袋を交換することなく様々なものに触れていれば感染を防げない。さらに安全なゾーンの区分けがきちんとされていなかった。しかし厚労省は、専門家もいて、マスクや手袋をしており、きちんと感染防御を行っていたと言う。その答えを聞いた日本国民は、きちんと防御しても、感染が広がったことに恐怖を覚えたはずである。ここは正直に感染防御が不適切だったから、感染拡大を防ぐことができなかったと言えば、日本国民は納得して、今後の感染防御をどうしたらよいか真剣に考えたはずである。さらにクルーズ船内で患者が増えているのは、感染防御をする前に感染したからだと言い訳もしていた。しかし横浜に停泊後、クルーズ船内に入った検疫官や厚労省職員、医療従事者も複数感染しているので、厚労省の説明には多くの嘘があることがわかる。国民に正しい情報を開示することが重要であるが、今の政権にはこれができないようである。

さらに今回の感染の蔓延でわかったのは、実際はPCR検査ができるのに、検査の条件を厳しく設定していることである。感染防御で最初に行うべきことは、感染者を特定することである。診断がつかなければ、治療方針が立てられないのと同じである。政府に近い人は検査をしても意味がないようなことを言っているが、感染者を特定しないでどうやって対策を立てるのであろうか。確かに感染研などの公的機関では検査は手一杯かもしれないが、日本には何千件の検査が可能な民間会社が多く存在する。なぜ検査をする余地がないというのであろうか。最近その答えがないまま、唐突にPCR検査が保険の適用になるという。この発表で検査費用の出どころがはっきりしたが、問題は検査をどこで誰が行うかである。感染者がかかりつけ医に殺到すれば、感染を蔓延することになりかねない。また検体採取者が検体を採取する部位を正確に知らないと陰性になるし、検体採取時に感染する可能性がある。

確かにPCR検査は100%正確ではないが、これが今のところ唯一の検査法である。またPCR検査で陰性になる人がいるが、それは感染していないか、感染初期でウイルスがまだ十分増殖していないか、もう一つはウイルスが存在する部位から検体を採取していないからである(爪白癬では真菌が存在する部位を知らない専門医が大勢いるため、検査結果が陰性になることが多い)。そのため数日前のPCR検査で陰性だった人を下船させ、公共交通機関を利用して帰宅させるのは(日本以外の国では2週間施設に隔離)、感染防御を知らない人のやることである。これが日本の医療の現実であり、日本の医療が東南アジアより遅れている原因でもある。政府は「国民の生命と安全を守る」と常日頃から言っていたのではないのか。

【文献】

1) 渡辺晋一:学会では教えてくれないアトピー性皮膚炎の正しい治療法. 日本医事新報社, 2019.

渡辺晋一(帝京大学名誉教授)[新型コロナウイルス感染症]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top