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脂質異常症治療に関する最近の話題[内科懇話会]

No.5001 (2020年02月29日発行) P.26

司会: 大鈴文孝 (防衛医科大学校名誉教授)

演者: 池脇克則 (防衛医科大学校神経・抗加齢血管内科教授)

登録日: 2020-03-02

最終更新日: 2020-02-28

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  • 【司会】大鈴文孝(防衛医科大学校名誉教授)
    【演者】池脇克則(防衛医科大学校神経・抗加齢血管内科教授)

    わが国の新しいガイドラインの脂質管理に関する記述では,厳格な脂質管理が必要な高リスク患者を考慮し,「LDL-C値70mg/dL未満」という,より積極的な目標値が示されている

    近年の脂質異常症治療薬の介入試験では,スタチン+エゼチミブ併用,抗炎症薬投与,エイコサペンタエン酸(EPA)投与のそれぞれで,有意に心血管イベントを抑制する結果が示されている

    脂質コントロールが困難な家族性高コレステロール血症(FH)に有効なPCSK9阻害薬やミクロソームトリグリセライド転送蛋白(MTP)阻害薬が登場し,確実な成果を上げている

    HDL–C値を上げることで冠動脈疾患リスクを下げるという新しい治療戦略の検討が進められている

    ◉ ガイドラインから見る脂質異常症治療の方向性

    日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」では,動脈硬化性疾患リスクに応じて,患者を一次予防(生活習慣改善を行った後,薬物療法の適用を考慮する),二次予防(生活習慣の是正とともに薬物治療を考慮する)に層別化し,リスクカテゴリーごとにLDL-C(low-density lipoprotein cholesterol)管理目標値を定めています(表1)1)

    さらに,一次予防のリスクを低・中・高の3つにわけています。2017年版ガイドラインでは,Suita Study(吹田研究)のスコアによる冠動脈発症予測モデルを使ったリスク評価が採り入れられました。
    二次予防の目標値は100mg/dL未満というメインメッセージは従来通りですが,一部に70mg/dL未満という目標が追加されました。

    これは,家族性高コレステロール血症(familial hypercholesterolemia:FH),急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS),糖尿病などの二次予防において,より厳格な管理が必要な患者を対象としています。

    これらが新しいガイドラインの主な変更点であり,治療目標がより積極的な方向に振れたと言えます。

    ◉ 脂質異常症治療薬の最近の介入試験

    2015~2018年に行われた,脂質異常症治療薬に関する3つの大規模な介入試験を紹介します。

    (1)IMPROVE-IT(Improved Reduction of Outcomes:Vytorin Efficacy International Trail):エゼチミブの併用療法(2015年)

    脂質異常症治療では,従来よりスタチンを主としたLDL低下療法が行われてきました。スタチンと併用することにより,LDL–C値を下げる力を格段に上げるエゼチミブという薬剤があります。エゼチミブは,小腸でのコレステロール吸収をブロックする作用を持っています。IMPROVE-ITでは,ACS患者を対象に,スタチン単独群(40mg)とスタチン(40mg)・エゼチミブ(10mg)併用群で,心血管イベントの抑制効果を比較しました。

    LDL–C値は,スタチン単独群で約70mg/dL,エゼチミブ併用群で約50mg/dLまで下げています。

    結果は,単独群よりもエゼチミブ併用群で7%弱のリスク低下がみられました。このstudyから,スタチン以外の薬を併用することによってLDL-C値を70mg/dLどころか約50mg/dLまで下げることができ,さらなるイベント抑制効果があることが示されました。

    高リスク患者に対してより低いLDL-Cの目標値を設定するという傾向が,わが国を含め,各国ガイドラインの主流となりつつあります。

    (2)CANTOS(Canakinumab Antiinflammatory Thrombosis Outcome Study): 抗炎症治療(2017年)

    脂質異常症の心血管イベントを抑制するために,カナキヌマブというinterleukin-1βに対するモノクローナル抗体を使った,驚くべき試験がハーバード大学の研究グループによって行われました。彼らは,「動脈硬化は慢性炎症であるから,脂質ではなく炎症を抑えることによって,心血管イベント抑制が期待できるのではないか」と考えたのです。心筋梗塞後で,炎症マーカー・CRP高値の患者を対象としました。

    結果は,カナキヌマブを投与しても脂質に変化はなく,CRPだけが低下しました。そしてカナキヌマブ50mg,150mg,300mgの3つの投与群で,150mg投与群と300mg投与群に有意なイベント抑制効果が示されました。彼らのproof-of-conceptが見事に証明されたわけです。

    (3)REDUCE-IT(Reduction of Cardiovascular Events with Icosapent Ethyl-Intervention Trial):EPA(2018年)

    エイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid:EPA)については,2007年のわが国のJELIS(Japan EPA Lipid Intervention Study)以来,良い結果が出ていませんでしたが,2018年の米国心臓協会(American Heart Association:AHA)におけるハーバードの研究グループによる介入試験で非常にポジティブなデータ(スタチンにEPA 1800mgを追加投与することによって心血管イベントが19%低下した)が出されました。

    中性脂肪(triglyceride:TG)150mg/dL以上500mg/dL未満で,LDL–Cは管理されている患者を対象に,EPA 4g/日を投与しました。

    追跡期間4.9年での虚血性イベント(心血管死,非致死性心筋梗塞,非致死性脳卒中など)発生率は,EPA投与群23.0%,プラセボ群28.3%(hazard ratio 0.75,P=0.00000001)でした。

    しかしデータを見ると,TGの値は40mg/dL程度しか下げていませんし,LDL-CやHDL-C,CRPの値も変化していません。バイオマーカーの改善はないにもかかわらず,大きな有意差が出た背景には何があるのかは現時点では不明です。

    この発表以来,欧米ではスタチン治療後の高TG異常に対し,フィブラートではなく高用量のEPA投与が主流になりつつあります。

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