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【識者の眼】「なぜアジア地域でのがん医療研究連携が喫緊の課題か」松田智大

No.5000 (2020年02月22日発行) P.67

松田智大 (国立がん研究センター企画戦略局国際戦略室長)

登録日: 2020-02-19

最終更新日: 2020-02-18

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これまで感染症が主たる疾病負担であった中・低所得国(LMIC)において、がんの負担が急速に増加している。特にアジア地域は人口規模が大きく、高齢化が深刻化し、がん患者の数は、2018年の875万人から2040年には1447万人に増加することが推計されている(https://gco.iarc.fr/)。

この負担に対処すべく、アジア諸国が連携することには、いくつかの動機づけがある。まず、国際医療協力としてLMICを支援することはモラル・オブリゲーション(道徳的義務)である、という人道的観点があるだろう。我々の経済活動が(例:タバコの販売)、他国のがん罹患・死亡に影響を与えている可能性も理由となるかもしれない。しかし、動機づけはそれだけにとどまらない。

人の流動性がきわめて高い今日、非感染性疾患(NCD)であるがんも、国境を越えた共通の健康問題として社会学的観点から考える必要がある。子宮頸癌におけるHPV等の感染症対策の側面はもちろん、発がん物質の流通や環境問題に対する国際的規制など、各国の自助努力では、いかんともしがたい課題も多い。欧米諸国と比較して、アジアのがん罹患パターンは酷似しており、学術的観点から、協働体制の構築による技術革新の加速が期待される。特に、希少がんや小児がんなど症例数が少ないがんを対象に製薬企業の参入を誘い、臨床試験を実現することもできる。公衆衛生学的観点では、地域の格差を解消することにより、一国および世界全体の健康増進を期待できることが、これまでも証明されてきた。最後に、人口減少に転換したわが国では、患者も医療者も減少することから、他国に頼らざるを得ないという実情もあるだろう。

来日・在日のアジア人やアジアに滞在する日本人に対するがん医療、そして日本で活動するアジア人のがん医療者を考えると、国内活動と国際活動との対立構造はもはや成り立たない。アジアでのがん医療研究連携は喫緊の課題である。

松田智大(国立がん研究センター企画戦略局国際戦略室長)[アジアのがん医療研究連携]

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