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【識者の眼】「2016年の『シン・ゴジラ』と『君の名は』に 現れていた日本社会の無意識」堀 有伸

No.4999 (2020年02月15日発行) P.65

堀 有伸 (ほりメンタルクリニック院長)

登録日: 2020-02-18

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皆さんは「集団も『こころ』を持つ、無意識を持つ」と聞いたら、どう思われますか。

「日本社会全体が抱いている無意識的な幻想」があるとしたら、それはどのように解釈されるのか、そんなことを考えて、私は著作などを発表してきました。今回は日本医事新報のこちらのコーナーで発表する機会をいただけたことを、とても嬉しく思っています。

以前には現象学や精神分析学を学ぼうとした精神科医も少なくはなかったのですが、昨今は精神医学の分野でも実証主義の精神が広まっており、検証しようもない無意識についての言説などは、省みられなくなりました。私は現在47歳です。「こころ」についての定性的な議論について、時間を取って学ぶことができた最後の世代だと思います。そして今は、流行しなくなった知であっても、その一部の実践を続けることには一定の意味があるだろうと考えています。

さて、2011年の東日本大震災は、日本社会全体としての「こころ」に、とてつもない大きな影響を与えた出来事でした。そのインパクトを、私たちは十分に咀嚼できていません。

流行した映画や小説は、その時の社会全体の無意識を上手に解釈しています。2016年には『シン・ゴジラ』と『君の名は』という二つの映画が流行りました。どちらも素晴らしい映画で、私は大好きです。しかし、この二つの映画を見たときに、私に思い浮かんだのは、「日本社会の無意識は、原発事故を防げなかった事実にまだ十分に向かい合えずに苦しんでいる」というものでした。どちらにも災害が描かれていますが、登場人物達の努力により、ギリギリのところで惨事は避けられました。それは、2011年の事実とは異なっています。

したがって、「日本社会全体の無意識」を読み続ける作業には、意味があるでしょう。2016年は私にとっては、原発事故の影響を強く受けた福島県南相馬市にメンタルクリニックを開業した年です。

堀 有伸(ほりメンタルクリニック院長)[東日本大震災]原発事故]

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