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【識者の眼】「クルーズ船や施設に停留されている方の健康を考える」和田耕治

No.4999 (2020年02月15日発行) P.59

和田耕治 (国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)

登録日: 2020-02-06

最終更新日: 2020-02-06

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クルーズ船の乗客や武漢から帰国された方が停留の対象になっています。2009年の新型インフルエンザ流行の際に、北米からの帰国者が停留されることを想定して、成田空港付近の某ホテルでゴールデンウィークの時に停留施設の立ち上げを支援したことを思い出しました。

いずれ停留を実行する日が来ることを想定して、私は2008年に協力者を募って停留のシミュレーションを行っていました(厚生労働科学研究費. 新型インフルエンザ流行時の停留の手引きのあり方に関する研究. 平成20年)。シミュレーションの際は3日程度の「停留」だったと記憶しています。対象者には1日に何度か思ったことを書いてもらって課題を整理しました。その中で意見として強かったのは「個室に一人でいると孤独」ということでした。

2009年の停留施設の立ち上げの時は、感染対策だけでなくメンタルヘルスについても検討しました。停留を行ったホテルの最上階に広い部屋があり、「せめて食事の時だけでも距離を空けてそこに集められないか」という提言を責任者に行いました。

実際に新型インフルエンザ流行時に最初に停留の対象者が現れたのは2009年5月9日でした。多くは学生など若い人でした。当時の責任者の英断もあり、新型インフルエンザが飛沫感染であることを考慮して、食事の時はその最上階の部屋でテーブルを十分離して過ごしていただきました。お互いに大声で談笑するなどして雰囲気は和やかで、移動もマスクを着用して離れながら階段などで向かっていただいたようです。

今回の新型コロナウイルスは感染力がインフルエンザと比較しても強い可能性が残っていますが、もし可能であれば食事の時間ぐらいはこうした対応ができないかと思います。

また、当時は運動不足も課題となり、室内でできる体操の方法をプリントにして配りました。メンタルケアの電話相談窓口も設置されて周知されたようですが、あまり利用されなかったようです。停留されている方の中には、テレビで施設の映像を見て、その取り上げられ方に不快感を感じた方もいたようです。おそらく、現在停留されている方もテレビをご覧になっているのではないでしょうか。

停留されている方のご負担を考えると心が痛みます。今回は2009年の停留と違って高齢者が多いので健康面への配慮も必要です。くれぐれも感染だけでなく、他の健康問題が起こらないことを祈っています。

【参考】

▶    中央法規出版『新型インフルエンザ(A/H1N1)─わが国における対応と今後の課題. 第4章 入国者管理(水際対策)』
    [https://www.chuohoki.co.jp/products/topic/images/3513_4.pdf]

(著者注:2020年2月5日までの情報を基にしています) 

和田耕治(国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)[新型コロナウイルスに備える]

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