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【識者の眼】「新型コロナウイルス:医療従事者の万が一を補償する労災補償制度」和田耕冶

No.4998 (2020年02月08日発行) P.56

和田耕冶 (国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)

登録日: 2020-01-28

最終更新日: 2020-01-28

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中国における医療従事者の感染や医師の死亡が報道されています。患者の多くは軽症という報告もされていますが、今後感染者に対応する可能性のある医療機関の職員や医療従事者は不安でしょう。今回は、診療による感染、そして死亡という万が一を補償する労災補償制度について改めて確認します。

民間病院と公的病院に対応する労災補償制度がわが国にはあります。原則としてアルバイトを含むすべての労働者に適用されます。雇用契約がないとこの制度は使えないので学生やボランティアには適用されません。

労災保険法に規定される労災補償制度には、感染症による業務上疾病の要件に、患者の診療で感染したということが含まれています。これまで、重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)は日本で報告はないので、これらの感染症により労災補償制度が使われたことはありません。2009年の新型インフルエンザ流行時の場合には、2009年5月11日に事務連絡が出て、「医師、看護師等が患者の診断もしくは看護により、新型インフルエンザに感染し発症した場合には、原則として保険給付の対象となる」と示されました。しかし、その後は市中でのインフルエンザ感染が当たり前になり、診療行為による感染かどうかの判断が難しかったので、実際にどの程度が請求、認定されたかはわかりません。

労災補償では、治療費だけでなく、死亡した場合の補償もなされます。補償額はそれまでの年収と、配偶者や子供の有無により異なります。
例えば、2010年当時に試算をした額を参考までにお示しします。

死亡前1年間の給与が月収30万円と賞与80万円であった場合は、独身の方の場合は遺族に1500万円程度が支払われると計算されました。同じ給与で、配偶者がいて、子供がいない場合は、一時金300万円、年金として毎年約180万円と計算されました。また、労災補償にも上限があり、月収100万円、賞与250万円の方で子供2人がいた場合には一時金300万円、年金として毎年約640万円(このぐらいの額が上限に近い)が遺族に支払われるようです。

亡くなった場合には、遺族が労災申請を行わなければならず、医療機関は書類などの作成に協力することになります。また、認定は労働基準監督署によりなされます。自動的に支払われるものではありません。

なお、注意が必要なのは、経営者である開業医や医療機関の院長は原則として労災保険の対象とならないということです。しかし、一定の要件を満たせば労災保険の特別加入制度があるようです。経営者や管理者は、自分自身が労災保険の対象であるかは各自でご確認ください。

【参考文献】

▶    和田耕治, 他:新興・再考感染症などに感染した場合の労災補償制度. Medical Asahi. 2011;7:34-7.

和田耕冶(国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)[新型コロナウイルス拡大に備えて]

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