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【識者の眼】「子どもを取り囲む環境は大きな転換期を迎えている」小橋孝介

No.4997 (2020年02月01日発行) P.59

小橋孝介 (松戸市立総合医療センター小児科医長)

登録日: 2020-01-30

最終更新日: 2020-01-28

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2019年1月に千葉県野田市の小学4年生、栗原心愛さんが虐待によって亡くなった事件について、関係機関の対応を検証した千葉県の第三者委員会の報告書が11月25日にまとまった。様々な機関が関わっているなかで、心愛さんを救う沢山のチャンスが、関わる側の問題で見過ごされていたことが明らかになった。

2018年度の児童相談所での児童虐待相談対応件数(速報値)によると、医療機関からの通告件数は全体の2%にすぎない。米国では10%程度であり、日本における医療現場での児童虐待認知度が著しく低い現状を示している。筆者がプライマリ・ケア医を対象に行った調査でも、児童虐待を疑ったにもかかわらず、児童虐待防止法の中で義務とされている通告や相談を行わなかった回答者は22.9%(n=109)と2割以上も認めた。

児童虐待対応の基本的な知識や具体的な対応方法について医療に関わる専門職は身につけていなければならない。しかしながら医学部教育の中において、児童虐待について1コマ以上講義を行っているのは全大学の中で1割程度である。そのような中、2020年度に予定される医師臨床研修制度の見直しに合わせ厚生労働省は2005年公表の「新医師臨床研修制度における指導ガイドライン」を見直し、「医師臨床研修指導ガイドライン─2020年度版」を2019年3月に公表した。その中で、実務研修の一環で全研修期間を通じて必要な分野・領域等に関する研修の必須項目として日本子ども虐待医学会が開催する「医療機関向け虐待対応啓発プログラムBEAMS」等の虐待に関する研修が義務づけられた。今後はすべての医師が、基本的な児童虐待対応の知識と技術を持って現場に出てくることになる。

2020年4月には子どもに対する親からの体罰を禁止した改正児童虐待防止法も施行される。子どもを取り囲む環境は今まさに大きな転換期を迎えている。

小橋孝介(松戸市立総合医療センター小児科医長)[児童虐待][子ども家庭福祉]

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