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【識者の眼】「産業医のための新型コロナウイルス対策:春節後に中国から戻った労働者の感染対策の考え方」和田耕冶

No.4997 (2020年02月01日発行) P.56

和田耕冶 (国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)

登録日: 2020-01-27

最終更新日: 2020-01-27

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春節が終わると、中国に帰国していた職員や留学生などが日本に戻ってきます。多くの人は日本で何らかの仕事をしています。

「中国から日本に戻った労働者を自宅待機にすべきか」という課題が企業で話題になっています。留学生のいる学校でも同様のことが話題になるでしょう。

こうした判断に必要な情報は、①潜伏期間、②感染者がどの時期にウイルスを排出し他人に感染させるのか、③軽症や発症していない人はウイルスを排出するのか―の3点です。

①については、潜伏期間は平均7日前後で、2日から12日という報告があります。また、1月21日現在、国立感染症研究所は、濃厚接触者は14日間の観察が必要としています。
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9323-ncov-200121-1.html

②については十分な情報がありません。

③は、発熱などの症状がないけども感染している人がいるという報告もあります。こういう人がどのくらい他の人にまで感染させているかはわかりません。報道によると、発熱など発症していない人が感染を広げているという話があるようです。インフルエンザでは、発症1日前からウイルスを排出していることが確認されていますが、今のところ咳などがなければ周りの人に感染を広げているエビデンスはありません。麻疹などでは潜伏期間に感染を広げていることは指摘されていますが、麻疹と同様に感染を広げることは今のところ考えられていません。

以上のように十分な根拠がない中での意思決定はなかなか難しいですが、一方でできる対策の選択肢はそんなにありません。

中国から日本に戻った方への対策を軽い対策から重い対策へと3段階にわけてみました。

A:中国で肺炎などの患者と接した可能性を確認。その可能性がなければ、発熱や咳などの症状を確認。症状がなければ出勤いただく。
B:Aを実施して、さらに出勤時は念のためマスクを着用させる。または別室で作業をさせる。
C:潜伏期間を参考に、帰国後数日は自宅待機とする。


どの対応を取るかは企業の姿勢次第です。ただ、いずれにしても「中国から帰国した」ということで差別の対象にならないように配慮すべきです。BやCの対策を行うにしても、本人や周りに十分納得できるように話をする必要があります。

Cの対策を実施したとしてもおそらく生活では外出するでしょう。重症急性呼吸器症候群(SARS)の際には自宅待機できない人はホテルにこっそり泊まったという話もありましたが、対策として疑問が残ります。

感染リスクはゼロにはなりません。そのためリスクは分散させる必要があります。もし何かのきっかけで感染が広がった場合には、その前の対応がどうであったか、また、その事実がわかった後にどう対応したかによって批判は変わります。

行動経済学者のダニエル・カーネマンは、「我々のリスク認知は、比較的小さなリスクを過大評価し、大きなリスクを過小評価する傾向がある」としています。バランスの良い対応をできるだけ考えたいものです。

(著者注:2020年1月26日朝までの情報を基にしています) 

和田耕冶(国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)[新型コロナウイルス拡大に備えて]

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