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【識者の眼】「『困った患者さん』の疾患原因は?」西村真紀

No.4996 (2020年01月25日発行) P.59

西村真紀 (川崎セツルメント診療所所長)

登録日: 2020-01-23

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第1回となります今回はSDHとは何かについてお話ししたいと思います。健康や疾病の原因の多くは個人の遺伝子や生物学的性別など生まれ持ったものというより、生活環境要因であり、これをSDH(Social Determinants of Health、健康の社会的決定要因)と言います。世界保健機関(WHO)ではsolid facts(確かな事実)として、社会格差、ストレス、幼少期、社会的排除、労働、失業、社会的支援、薬物依存、食品、交通をSDHの項目として挙げています。SDHにより健康格差が生まれます。国別平均寿命をみてみると、世界中に健康格差があることが一目瞭然です。戦争、貧困、衛生、交通などの原因が容易に想像できるでしょう。日本でも厚労省が「健康日本21」(21世紀における国民健康づくり運動)で健康格差への対策を進めていて、主に生活習慣病の一次予防に関する社会環境の改善とヘルスプロモーションに重きが置かれています。このようにマクロな分析や政策により世界や国で健康格差対策が行われてきています。

さてミクロな話に移りましょう。日々の診療からSDHを考える時、目の前の患者さんから想像する力が必要です。例えば通院を中断しては喘息発作で深夜に救急外来を頻繁に受診する小学生。その都度治療し外来通院を約束していましたが、約束通り外来に来たためしがありません。スタッフからは「困った患者さん」「親がダメ」と言われています。通院できない理由を聞くと「忙しい」「仕事を休むと首になる」とのことでした。母はシングルマザー、夜の仕事で、タバコも吸っています。子どもと接することのできる時間帯は夕方2時間ほど。この子の喘息発作の原因は何でしょうか? 貧困、親の不健康な労働環境、親の喫煙、不十分な育児、健康に関する無関心などのSDHです。私たちはSDHを知ることで通院日時の検討、患児への喘息治療教育、母の禁煙指導などの工夫ができます。SDHそのものへの介入としてはソーシャルワーカーを通じて社会制度、行政、支援団体とつなぐなどの社会的処方(後述)が必要です。

西村真紀(川崎セツルメント診療所所長)[健康格差][SDH①]

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