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PTSD(外傷後ストレス障害)[私の治療]

No.4987 (2019年11月23日発行) P.57

平島奈津子 (国際医療福祉大学三田病院精神科病院教授)

登録日: 2019-11-25

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  • 心的外傷をきたすような重篤なストレス体験の後に,その出来事に関連した特徴的な心身の症状が1カ月以上続く精神障害である。生後1年目以降のどの年齢でも起こりうる。成人の半数では発症の3カ月以内に回復するが,数十年にわたって持続する場合もある。

    ▶診断のポイント

    実際に生命の危険を被ったり,性的暴力被害を受けたり,それらの出来事を目撃したり,身近な人が重篤な心身の被害を被ったことを聞いたり,あるいは役割上,心的外傷的な出来事の詳細に触れ続けなければならなかったことによって,その出来事と関連した記憶の想起や人・場所などを持続的に回避する症状,侵入症状(悪夢・フラッシュバックなど),認知や気分の低下(解離性健忘・自己や世界に対する否定的な信念・恐怖や恥・孤立感など),過覚醒(過度な警戒心や驚愕・攻撃性や易怒・睡眠障害・集中困難など)が1カ月以上続き,そのために社会的・職業的な生活に著しい支障をきたしていることが診断には必要である。

    上記の症状に加えて,現実感消失や離人感が認められることもある。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    外傷後ストレス障害(post traumatic stress disorder:PTSD)と診断されたなら,その症状だけではなく,患者がおかれている心理社会的な状況についても評価する。たとえば,患者が学生ならば学業や校内での対人関係はどうか,勤労者ならば就労や職場での対人関係はどうかなど,「役割遂行能力」障害の程度を評価する。住居環境や経済状況なども,患者の安心・安全感が確保されているかどうかを評価するための重要な情報となる。これらの包括的な心理社会的評価に基づいて,治療方針を立てる。もし,心的外傷体験後の患者が安心・安全感が得られていないようなら,ソーシャルワーカーの介入も検討し,環境を整えることが必要である。また,最低限の衣食住が提供されていること,身体の健康に配慮されていることなどの確認も,精神医学的治療に先行して行われるべきである。その上で,PTSDがどのような病気なのか,治療法にはどのようなものがあるか,予後はどうかなどを説明する心理教育を行い,患者と相談して治療方針を決定する。合併する精神障害の治療も含めて,短期的・現実的な治療目標を立て,それを患者と言語的に共有する。

    成人のPTSDに対して,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitors:SSRI)とセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(serotonin norepinephrine reuptake inhibitors:SNRI)は有効性が期待できるエビデンスがあり,安全性にも優れているため,これらの薬剤を第一選択薬として処方を開始する。その効果が不十分だったり,過覚醒や精神病症状が認められたりする場合は,増強作用を期待して非定型抗精神病薬を追加することは有用であるかもしれない。

    【注意】

    心的外傷体験後の早期に,被害者に「その出来事について詳細に語らせること」は緊急事態ストレス・デブリーフィング(critical incident stress debriefing:CISD)と呼ばれ,以前は推奨されていたが,その有効性は認められないとする報告が相次ぎ,現在ではむしろ早期に無理やり語らせることは避けたほうがよいとされるようになった。

    薬物療法では,ベンゾジアゼピン系薬剤は再体験や回避症状には無効であり,攻撃性増悪や習慣性使用などを惹起するリスクがあるため,原則として使用は控えたほうがよい。

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