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特発性正常圧水頭症[私の治療]

No.4984 (2019年11月02日発行) P.38

松本禎之 (田附興風会医学研究所北野病院副院長)

登録日: 2019-11-04

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  • 70~80歳代で発症し緩徐に進行する,歩行障害,認知障害,尿失禁を3徴とする症候群である。脳室拡大があるが,髄液の圧や性状は正常である。髄液シャント術によって症状改善が得られる。

    ▶診断のポイント

    3徴のうち歩行障害が病初期から生じる。開脚・外股・小刻み・すり足で,単位時間当たりの歩数が少なく,方向転換時には細かい足踏みを繰り返す。

    認知障害は前頭葉機能低下によるものであり,思考速度低下,語想起障害や無為・無関心,もしくは逆に脱抑制がみられる場合もある。記憶は比較的保たれやすい。

    排尿障害を含む3徴がすべてそろう必要はない。頭部画像では脳室拡大を認める。髄液シャント術で改善すると確定診断となるが,症状や画像で本疾患を疑うことが重要である。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    上述の特徴的な歩行障害と脳室拡大を認める場合は,髄液排除試験(タップテスト)を行い,同時に髄液の圧や性状を確認する。症候の改善があれば,髄液シャント術の適応を検討すべく脳外科へ紹介する。髄液排除後の症候改善は数日以内に起こり,特に歩行速度や歩幅の改善がよくみられる。ただし,本試験の感度・特異度は十分高いものではないため,症候改善がなくても典型的な画像所見(くも膜下腔の不均衡な拡大を伴う水頭症,後述)を呈する症例ではやはり脳外科へ紹介し,手術適応を検討する必要がある。

    なお,上述のような歩行障害は,一見神経変性疾患,特に進行性核上性麻痺や脳血管性パーキンソニズムの歩行障害と似ている。進行性核上性麻痺では病初期から転倒を繰り返す点や,進行に伴い眼球運動障害が出現してくる点が本疾患との鑑別になりうるが,鑑別の難しい症例も少なくない。

    画像の観点では,脳室やくも膜下腔の拡大は神経変性疾患や加齢に伴う脳萎縮でも生じるが,特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus:iNPH)では「くも膜下腔の不均衡な拡大を伴う水頭症(disproportionately enlarged subarachnoid space hydrocephalus:DESH)」と呼ばれる所見を認めることが多い。すなわち,くも膜下腔はシルビウス裂およびそれ以下で拡大しており,高位円蓋部や正中部では狭小化している。また,高位円蓋部や正中部の一部の脳溝が孤立して卵型に拡大していることもある。

    これらの画像所見があればiNPHを強く示唆するものであるが,症候がiNPHとして非典型的な場合には,神経変性疾患の併存を念頭に置く必要がある。髄液排除試験を行って症候改善があれば,少なくともその反応分にはiNPHが寄与していると考えられ,髄液シャント術による改善が期待される。ただし,神経変性疾患の併存が疑われる症例では,術後の改善が限定的であったり,もしくは術後いったん改善した後に再度緩徐増悪の経過をとりうることに関して,あらかじめ患者・家族へ説明しておく必要がある。

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