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日本紅斑熱[私の治療]

No.4977 (2019年09月14日発行) P.59

安川正貴 (愛媛大学プロテオサイエンスセンター免疫制御学部門特命教授)

登録日: 2019-09-12

最終更新日: 2019-09-10

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  • 日本紅斑熱は,1984年に馬原によって初めて報告されたRickettsia japonica(R. japonica)によるリケッチア感染症である。病原体はマダニによって媒介され,マダニに刺されることで感染する。全数報告対象(4類感染症)であり,診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出なければならない。
    患者発生数は年々増加しており,最近は年間300名を超える患者が報告されている。地域別では西日本が多いが,最近は青森,新潟,栃木など東日本でも患者が確認され,感染地域が拡大している。また,沖縄からの報告もある。潜伏期間は2~10日と,つつが虫病の10~14日と比べてやや短い。患者発生時期は,マダニの活動時期に合わせて4~10月に多い。
    治療は,テトラサイクリンが第一選択薬である。治療開始が遅れると,多臓器障害,播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC),電撃性紫斑病などで予後不良となるため,迅速な診断と適切な治療が重要な疾患である。

    ▶診断のポイント

    臨床症状としては,高熱,発疹,刺し口が3徴候である。通常,悪寒を伴う高熱と高度の全身倦怠感で急激に発症し,頭痛,関節痛,筋肉痛,四肢のしびれ感などを伴うことが多い。重症例では血球貪食症候群や脳症を伴うこともある。熱型は弛張熱である。高熱とともに特徴的な紅斑が手足,手掌,顔面などに出現する。米粒大~小豆大の辺縁不整の紅斑で,痛みや瘙痒感を伴わないのが特徴である。手掌部の紅斑はつつが虫病ではみられない本症に特徴的な所見である。マダニによる刺し口は,つつが虫病のそれに比して一般的に小さく見落としやすいので,注意が必要である。つつが虫病のほとんどの症例でみられる所属リンパ節,または全身リンパ節の腫脹は認められないことが多く,肝脾腫の頻度も低い。

    検査成績では,白血球と血小板は減少傾向を示すことが多く,肝酵素(AST,ALTなど)の上昇とCRPの強陽性が認められる。尿検査では,蛋白ならびに潜血が陽性になることが多い。重症例ではDICなどの血液凝固異常症をきたす。また,フェリチン値上昇や骨髄穿刺で血球貪食像などの血球貪食症候群を呈する。確定診断は,主として間接蛍光抗体法または間接免疫ペルオキシダーゼ法による抗体の検出(IgM抗体の検出またはペア血清による抗体陽転もしくは抗体価の有意の上昇)による。病原体診断として,刺し口痂皮,発疹部皮膚生検,急性期末梢血などを検体としたPCR法によるリケッチアDNA検出が行われている。本診断法は迅速で感度も高いが,一般的に行われている検査ではない。

    鑑別すべき疾患としては,つつが虫病,重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome:SFTS),麻疹や風疹などの発疹性ウイルス疾患などがある。つつが虫病は,皮疹の性状と分布や,刺し口の大きさや形状などがわずかに異なるものの,臨床症状は類似する。SFTSは,白血球と血小板の減少程度が高度であることや,CRPが上昇しないことなどが本疾患との鑑別診断の参考となる。なお最近,わが国においてもR. helvetica,R. tamurae,R. asiaticaなどのR. japonica以外の紅斑熱群リケッチア症も報告されている。これらの紅斑熱群リケッチア症の臨床症状はきわめて類似している。

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