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甲状腺クリーゼ[私の治療]

No.4976 (2019年09月07日発行) P.44

安田重光 (埼玉医科大学内分泌・糖尿病内科講師)

登録日: 2019-09-07

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  • 甲状腺中毒症に何らかの強いストレスが加わり,甲状腺ホルモン作用過剰状態と,それに対する生体の代償機構の破綻によって多臓器不全に陥り致死的となる,きわめて危険な病態である。
    わが国の2009年の全国疫学調査によると,発生頻度は少なく,推計患者数は年間約250人,致死率は11%(循環器症状による死因が最多)である。原疾患で頻度が高いのはバセドウ病(しかし,機能性甲状腺結節や破壊性甲状腺炎でも発症する)で,その原疾患の経過中に抗甲状腺薬の不規則な服薬,感染や手術などの侵襲が誘因となり発症する。

    ▶診断のポイント

    臨床的症状や徴候に基づき,日本内分泌学会ホームページ掲載の甲状腺クリーゼの診断基準(第2版)1)を用いて診断する。

    【症状】

    重度の甲状腺中毒症の症状と意識障害が特徴である。

    ①中枢神経症状:Japan Coma Scale 1以上またはGlasgow Coma Scale 14以下。不穏,せん妄,傾眠,昏睡など
    ②38℃以上の発熱
    ③130回/分以上の頻脈:心房細動併発例もある
    ④心不全症状:肺水腫,肺野の50%以上の湿性ラ音聴取,心原性ショックなどの症状。New York Heart Association(NYHA)分類4度,またはKillip分類Ⅲ度以上
    ⑤消化器症状:嘔気・嘔吐,下痢,黄疸

    【検査所見】

    甲状腺中毒症の所見:FT3,FT4の両方あるいはどちらかの高値。

    黄疸:血中総ビリルビン>3mg/dLは比較的予後不良。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    集中治療室での一般的緊急処置,十分な輸液と電解質補正,身体の冷却などの全身管理,誘因や併発症〔感染症,播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)など〕も含め集学的治療を行う。

    バセドウ病から甲状腺クリーゼを発症した場合,無機ヨウ素(ヨウ化カリウム®)と抗甲状腺薬〔メルカゾール®(チアマゾール),またはチウラジール®,プロパジール®(プロピルチオウラシル)〕を大量に投与する。

    本疾患は甲状腺ホルモン過剰により相対的副腎不全の病態も伴うと考えられるため,副腎皮質ステロイドを投与する。ステロイドは,T4→T3への変換を抑制する作用もある。

    頻脈には主にβ遮断薬を使用する。厳格な心血行動態モニタリングと心不全の治療も行うことが多く,重症例は人工心肺も考慮する。循環器内科専門医と連携が必要である。

    解熱にアセトアミノフェン,中枢神経症状に鎮静薬や抗痙攣薬を使用し,難渋例は神経内科/精神科専門医へコンサルトする。

    黄疸を伴う重症肝不全合併例などは,血漿交換も検討する。

    本疾患は放置すれば死に至る。早期診断,初期治療開始が重要で,本疾患の可能性が疑われれば治療を開始し,甲状腺専門医へコンサルトもすべきである。

    頻脈へのβ遮断薬使用は,心不全をしばしば伴うため注意する。同剤の過剰投与に注意し,β1選択性かつ短時間作用型を使用する。ただし,気管支喘息患者には慎重に投与し,喘息発作が誘発された場合はワソラン®(ベラパミル)やヘルベッサー®(ジルチアゼム)へ変更を考慮する。

    アスピリン喘息患者では,副腎皮質ステロイドはヒドロコルチゾンコハク酸を使用しない。

    解熱薬は,遊離型甲状腺ホルモン増加の可能性がある非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)でなく,アセトアミノフェンを使用する。

    高齢者が発症した際の症状について,高熱や多動などの本疾患の典型的な症状に乏しいこともある。

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