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【論点】インフルエンザ迅速診断キットの有用性─No.4940(2018.12.29)「論点」に対する反論

No.4946 (2019年02月09日発行) P.26

武内可尚 (中村病院小児科)

登録日: 2019-02-06

最終更新日: 2019-02-06

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インフルエンザは,あまたある急性ウイルス感染の中でも,特筆すべき存在と言えます。1918年のスペイン風邪(A/H1インフルエンザ)で,私の母は,開業医の父と,産気づいていた母,生まれたばかりの赤ちゃんを一瞬にして失いました。生き残った3人の子どもたちは,それぞれ別の家に引き取られていきました。大正2年生まれの母は,そのとき5歳でした。

臨床ウイルス学を立ち位置としてきた小児科医にとっては,感染病原体は何か,を考えることは,基本的な立場と言えます。さらに言えば,感染があった証拠として,宿主が反応した結果である免疫反応が認められれば,十分な証拠と考えられます。

野口善令先生の主張からまず感じられることは,一般的に,非小児科医は,急性ウイルス感染症に対しあまり関心がない,ということです。小児は,何度も急性ウイルス感染症に罹患します。内科医が診る患者は,小児期を潜り抜けてきた,ありふれたウイルス感染症を,いわば卒業した成人が主です。

1994年,予防接種法が改正され,対象疾患からインフルエンザは除外されてしまいました。皮肉なことにその冬,300例以上のインフルエンザ脳炎/脳症が発生しました。そして,完治したのはわずか1/3でした。インフルエンザは,軽症にみえても中耳炎や肺炎に進行する可能性は少なくありません。

さらに言えば,急性感染症には,同時に2つ以上の病原体による重複感染も少なくありません。眼前の症状が,どちらの病原体によるものか,を考えることは,決して無意味ではありません。特に,インフルエンザシーズンは,RSウイルスの流行期とも重なります。抗ウイルス薬が存在するインフルエンザを,迅速検査によって診断する価値は非常に高いと言えます。

Monto AS, et alの文献を引用していますが,少なくとも当時の米国のデータは,“Influenza like illness”で論じられていることが多く,当時は,迅速診断キットの普及は米国では少なく,しかも,某社のキットは感度が低かった。Montoは有名なウイルス研究者で,インフルエンザでは,Options for the Control of Influenzaというインフルエンザに特化した国際会議(1996年ケアンズ,2000年クレタ島,2003年沖縄)で,その謦咳に接しています。

Cochrane Reviewsは,Study Designの異なる成績をメタ解析しているので,信頼度に疑問があります。

QOLを改善することは,臨床医としてとても大切なことであると,認識しています。しかし,抗インフルエンザウイルス薬を「よく効く解熱薬のようなもの」と断ずるのは,あまりにもインフルエンザを軽視したコトバと言わざるをえません。

抗インフルエンザウイルス薬が保険適用され,インフルエンザ迅速診断キットにも保険の適用があることは,きわめて画期的であり,医療のフリーアクセスとともに,わが国が世界に誇れる事例だと言えます。2009年に出現したA/H1N1pdmインフルエンザでも,日本の死者は世界で最も少なかった。米国では,多数の妊婦が亡くなったのに対し,わが国ではほとんど死亡例はなく,「日本には,妊婦はいないのか」と揶揄されました。

家族が一様に発病している,保育園で流行している,などの患者の置かれている立場・状況によっては,迅速診断の必要性は必ずしも高くないということは,臨床医なら経験しています。しかし,野口先生の言う,抗インフルエンザウイルス薬も耐性ウイルスが出るからあまり必然性がないとする考えには,賛同しかねます。今までのところ,耐性ウイルスが,より伝染力が強いとか,より病原性が強くなった,とする事例はありません。「患者個人の経済的負担,社会全体の医療費への配慮」を挙げていますが,インフルエンザが与える社会的・経済的損失は,繰り返し証明されています。今日の子どもたちは,いろいろな行事,クラブ活動などで対外試合や遠征の機会が少なくありません。自分の地区でインフルエンザが流行していなくても,医者勘を働かせて,迅速診断キットを活用し,インフルエンザか否かを診断することが大切です。繰り返しになりますが,インフルエンザを軽視すべきではありません。

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