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コレステロール管理目標値は妥当か?

No.4946 (2019年02月09日発行) P.56

辻田賢一 (熊本大学大学院生命科学研究部循環器内科学分野教授/診療科長)

登録日: 2019-02-12

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コレステロール管理目標値の妥当性について。過剰に下げることの副作用,合併症等を考えると,ガイドライン(たとえば日本動脈硬化学会のガイドライン)の目標値は常に適正なものとしてめざすべきかどうか,疑念が生じることもあります。様々なケースを診療するにあたってのコレステロール管理目標値の考え方についてご教示下さい。

(長崎県 N)


【回答】

【動脈硬化学会ガイドラインはきわめて臨床的かつ現実的な目標値を設定している】

欧州動脈硬化学会(European Atherosclerosis Society:EAS)が発表した最近の新たな声明において,コレステロールに関する懐疑を払いのけることをめざし,「LDLコレステロールは単なるアテローム動脈硬化性心血管疾患(atherosclerotic cardiovascular disease:ASCVD)のバイオマーカーではなく,ASCVDの原因となる」ことを報告しています。

具体的には「LDLコレステロールの絶対値と心血管疾患リスクの間には,濃度依存的な対数線形関係が存在し,これは他の心血管疾患リスク因子とは独立した関連であり,また多方面からのエビデンス間で一貫していた」というものであり,コレステロール管理目標値設定の妥当性の背景です。

コレステロール管理目標の設定にやや消極的であった米国でも,“2018 Cholesterol Clinical Practice Guidelines”1)において,very high riskのAS CVD患者の二次予防や40歳以上75歳以下の糖尿病患者においてLDLコレステロールの治療閾値を70mg/dLと記載しており,日本動脈硬化学会編「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」2)に記されたリスク区分別の脂質管理目標値(表1)は,きわめて臨床的かつ現実的な目標値と言えるでしょう。

治療オプションに関しても,近年は,ストロングスタチンに加え,エゼチミブ,proprotein convertase subtilisin/kexin type 9(PCSK9)阻害薬といった非スタチン脂質低下薬が利用可能となり,その単独あるいは併用療法によってスタチン不耐症,スタチン不応症といった病態においても管理目標値達成が可能となっています。

では,高齢者ではどうでしょうか。日本老年医学会は,「高齢者脂質異常症診療ガイドライン2017」の中で,高齢者においても総コレステロール,non-HDLコレステロール,LDLコレステロール値が高くなれば,冠動脈疾患の発症が増加することを明記しています。脂質低下療法の介入に関しても,高齢者におけるスタチン治療は冠動脈疾患の二次予防効果が期待できること,前期高齢者(75歳未満)の高LDL-コレステロール血症に対するスタチン治療は冠動脈疾患,非心原性脳梗塞の一次予防効果が期待できることも述べています。しかし,後期高齢者(75歳以上)の高LDL-コレステロール血症に対する脂質低下治療による“一次”予防効果は明らかでないことから,ケースバイケースの判断が必要です。

最新のデータとして,高LDLコレステロール血症を有する日本人高齢患者(75歳以上)を対象に,冠動脈疾患の既往のないハイリスク患者に対して,エゼチミブの脳心血管イベント抑制効果を検討したEWTOPIA75試験が行われ,その結果がAHA2018で発表されました。対照群に比較してエゼチミブ投与群では,脳心血管イベントが有意に低率であり,高LDLコレステロール血症合併後期高齢者に対する一次予防に1つの指針を示しました。

ご質問の中の,「過剰に下げることの副作用,合併症」に関しては,「コレステロール低値のほうが,がんや脳出血の死亡率が高い」という観察研究結果に基づく解釈と思われますが,スタチンなどの脂質低下薬による介入試験でがんが増えたという結果は報告されていませんので,低コレステロール血症でがんになるのではなく,がんがあることによってコレステロール低値になっていると考えられています。つまり臨床現場においては,予想されるよりも過度のコレステロール低値をみた場合,潜在するがんやがん前病変としての肝硬変やCOPDといった消耗性疾患を念頭にスクリーニングを行うことが重要ですし,脳出血予防の観点からは厳格な血圧管理が優先されます。

【文献】

1) Grundy SM, et al:J Am Coll Cardiol. 2018 Nov 8. [Epub ahead of print]

2) 日本動脈硬化学会:動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2017年版. 2017.

【回答者】

辻田賢一 熊本大学大学院生命科学研究部循環器内科学分野教授/診療科長

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