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認知症における漢方治療のアプローチ

No.4924 (2018年09月08日発行) P.44

河尻澄宏 (東京女子医科大学東洋医学研究所)

登録日: 2018-09-07

最終更新日: 2018-09-04

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  • 認知症対策は超高齢化が進むわが国において重大な課題である。認知症には様々な原因があり,アルツハイマー型認知症(AD)をはじめ,脳血管性認知症(VD),レビー小体型認知症(DLB)が主であるが,薬物療法の効果は限定的である

    健忘を主治とする生薬の「遠志」を含む漢方エキス製剤は,帰脾湯,加味帰脾湯,人参養栄湯である

    「遠志」を含まないが,認知症に効果が期待できる漢方薬には,抑肝散,抑肝散加味陳皮半夏,釣藤散,当帰芍薬散,八味地黄丸がある

    1. わが国における漢方とは

    漢方は中国の医療体系を源にし,江戸時代にわが国独自の発展を遂げたもので,漢方薬は複数の生薬を組み合わせた薬である。近年,西洋医学の限界および副作用の問題などから,漢方薬を処方する医師が増えており,認知症においても漢方薬の応用が期待されている。漢方薬による効果を過大に期待してはならないが,認知症における漢方治療のアプローチについて解説する。

    2. 遠志を含む漢方薬

    1 健忘を主治とする生薬「遠志」

    遠志はイトヒメハギの根で,その主治は鎮静作用であるが,『神農本草経』(後漢~三国時代に成立)に「不忘」とあり,健忘症状に有効であることが記載されている。近年の研究では,遠志が高齢者への記憶を含めた認知機能を改善させた報告や1),βアミロイド(Aβ)によるラット皮質ニューロンへの傷害を抑制した報告などがある2)。『神農本草経』の記載は,現在の認知症の中核症状と同等のものとは考えにくいが,健忘を使用目標のひとつとして,遠志を含有する漢方薬を考慮してもよい。

    遠志を含む医療用漢方エキス製剤は帰脾湯,加味帰脾湯, 人参養栄湯の3つであり,まずはこの3つについて解説したい。

    2 帰脾湯

    補気作用(体全体のエネルギーを補う)を持つ人参と黄耆を含む参耆剤のひとつで,体質的には虚弱で内臓下垂傾向のある者の不安,動悸,不眠,健忘などの症状に有効とされる。原典『厳氏済生方』(1253年成立)には「思慮過制,心脾を労傷し,健忘怔忡するを治す」と記載されており,過度に思いをめぐらして精神的に過労となり心(精神活動)と脾(胃腸)とを消耗させた結果,物忘れ,胸さわぎがするときに効果があると考えられる3)

    認知症に対しての報告によると,アルツハイマー型認知症(Alzheimer’s disease:AD)患者64例で,帰脾湯服用群,牛車腎気丸服用群,非治療群に無作為にわけて,3カ月間服用後,帰脾湯群のみでMini-Mental State Examination(MMSE)スコアの特に見当識,注意力が有意に改善された4)

    ADに限らず,認知症患者は虚弱傾向にあり,健忘は中核症状として,不安,抑うつなどは周辺症状(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD)として随伴することが多く,帰脾湯が有用である可能性はある。

    3 加味帰脾湯

    帰脾湯に柴胡,山梔子を加味したものであり,帰脾湯と同じく参耆剤のひとつである。柴胡は清熱,鎮静作用があり,山梔子は胸苦しさを伴う熱感を治し精神安定を図る作用がある。帰脾湯と同様に虚弱体質の動悸,不眠,健忘,イライラ,のぼせなどに有効である。

    認知症に対しての報告によると,AD患者のドネペジル単独治療6例で12カ月後のMMSEスコア平均値がベースラインよりも低下したのに対し,有意差はないが,加味帰脾湯・ドネペジル併用治療6例において低下はみられなかった。MMSEの内訳では,遅延再生改善効果に有意差が認められていた5)

    帰脾湯と同様に認知症患者に多く適応があると思われるが,帰脾湯との使いわけとしては,のぼせ,イライラ,胸苦しさなどの熱状,精神症状が強い場合には加味帰脾湯がよい。

    4 人参養栄湯

    帰脾湯,加味帰脾湯と同様に人参,黄耆を含む参耆剤である。慢性疾患(特に呼吸器系)や術後などで,体力が消耗され,体質的には虚弱な者の倦怠感,息切れ,咳嗽,貧血傾向,皮膚乾燥,冷え症などが使用対象である。

    認知症に対しての報告によると,ドネペジルで効果不十分の23人のAD患者に対し,11人はドネペジル単剤のまま,12人はドネペジルに人参養栄湯を併用し,2年の経過を追ったところ,MMSEでは有意差はなかったものの,Alzheimer’s Disease Assessment Scale-Japanese version(ADAS-J)とNeuropsychiatric inventory(NPI)では有意に改善を認めた。NPIの中でも妄想,抑うつ,高揚感に有効であった6)

    帰脾湯,加味帰脾湯ほどの精神症状への有効性はないが,体力低下が目立つ場合は人参養栄湯が選択肢に挙がる。

    以上が,遠志を含み中核症状に対しても効果が期待できる漢方薬であるが,エビデンスとしては十分ではない。しかし,解説した症状,病態がある場合は投与を検討してもよい。

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