株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

不眠大国ニッポンにおける“ベンゾクライシス”[長尾和宏の町医者で行こう!!(88)]

No.4920 (2018年08月11日発行) P.24

長尾和宏 (長尾クリニック院長)

登録日: 2018-08-12

最終更新日: 2018-08-07

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ベンゾクライシス

米国ではオピオイド濫用が大きな社会問題になっている。2016年のオピオイド濫用による死亡者数は4万2000人を超え、まさにオピオイドクライシスと呼ぶべき様相を呈している。そこで昨年10月、トランプ大統領は「公衆衛生上の非常事態」を宣言した。日本ではオピオイドは適正に管理されており、こうした心配は今のところなさそうだ。オピオイド製剤のメーカーはオキシコドン徐放性製剤を容易に粉砕できない形態に変更するなどの対策を講じている。米国で起きることは後に日本でも起きることが多いので、今から予防策を講じておくことは好ましい。

一方、日本では睡眠薬、特にベンゾジアゼピン系薬剤の過量処方が問題になっている。ストレス社会や24時間営業のコンビニの普及などにより日本人の睡眠時間は世界的にも短くなった。睡眠障害に悩む若年者や高齢者は増加。世界有数の不眠大国である。それを受けて我が国の睡眠薬市場は年々拡大している。ベンゾ系薬剤は、不眠症や不安神経症に対して比較的安全性が高い薬剤として一般臨床で最近まで広く用いられてきた。しかし近年、依存性や認知症リスクなどがクローズアップされるようになった。これを「ベンゾクライシス」と呼ぶ人もいる。保険診療上、抗精神病薬だけでなくベンゾ系の向精神薬の処方には厳しい規制が続々と設けられている。

そこでベンゾ系に代わる睡眠薬として2010年7月発売のラメルテオン(ロゼレム)や2016年12月発売のスボレキサント(ベルソムラ)が推奨されている。私自身も高齢者への新規投与はなるべくこの2剤から選択するようにしている。しかし患者さんが期待するほどの効果が得られないことがよくある。あるいは以前にベンゾ系睡眠薬を服用した経験がある人は、再びベンゾ系を強く希望されることが多い。依存症の本態である「脳内報酬系」を絶ち切ることは決して容易ではない。

プレミアム会員向けコンテンツです(期間限定で無料会員も閲覧可)
→ログインした状態で続きを読む

関連記事・論文

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top