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【OPINION】医師法20条ただし書きとそれに関する通知にみる診断書交付の問題点について

No.4717 (2014年09月20日発行) P.16

池谷 博 (京都府立医大院法医学・医学生命倫理学教授)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-03-23

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  • 1.問題の発端

    平成24年8月31日に厚生労働省医政局医事課長発にて各都道府県医務主管部(局)長宛へ以下の厚生省医務局長通知の再通知がなされた。

    再通知されたのは昭和24年4月14日に医務局長発各都道府県知事宛に出された通知で、医師法(昭和23年法律第201号)20条のただし書きに関して、「診療中の患者であった場合には、死亡の際に立ち会っていなかった場合でも死亡診断書を交付できるが、本文の規定により、原則は死亡後改めて診察をしなくてはならない。ただし書きは、診療中の患者が受診後24時間以内に死亡した場合に限り、死後診察しなくても死亡診断書を交付しうることを定めたもの」というものであった。

    医師法20条には「医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し、診療中の患者が受診後24時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。」と定めており、これを素直に読むと医師は診療中の患者であれば受診後24時間以内に限り、診察をしないで死亡診断書を交付できる。

    そもそもなぜこの通知が出されたのかは、通知文に書かれているが、高齢者が増加する一方、医師法20条ただし書きの誤った解釈により、在宅の看取りが適切になされておらず、受診後24時間以上経過した遺体に関して死亡診断書が交付できないとの申出や、医師法21条の異状死体の届出の24時間以内に警察に届け出なければならないことと混同したケースが生じているという指摘があったためであったという。

    2.通知文で認識した疑問点

    筆者は、この通知文を見た際に非常に違和感を覚えた。それは次の3点である。①そもそも「診療」とは何であるか?②死後に「診察」するということは「検案」に他ならないのではないか?③かかる死に死体検案書ではなく、死亡診断書を交付する意義はどこにあるのか?

    (1)「診療中」とはどのような状態か?

    現在の医師法を見ると、原則は診察中に死亡した場合は死亡診断書、医師が死後に検案した(診た)場合は、死体検案書を交付することになっているが、このただし書きによって、死後であっても診療中で受診後24時間以内であれば死亡診断書を出せることになっている(表1)。
    ところが、思うに、この「診療中」の意味が甚だ不明確である。果たして「診療中」とは、どのような状態を意味するのであろうか。

    (2)医師法20条ただし書きの歴史的経緯

    この医師法20条ただし書きの規定は、戦前の旧医師法においても同じなのであろうか。旧医師法(明治39年法律第47号)を見てみると、第5条は「医師は自ら診察せずして診断書、処方箋を交付し若は治療を為し又は検案せずして検案書若は死産証書を交付することを得ず。但し診療中の患者死亡したる場合に交付する死亡診断書に付ては此の限に在らず。」となっている。ただし書きは明治42年の改正で追加された。旧医師法では表2のように、ただし書きによって医師が見た時点で死亡しているものに関しては、診療中であれば死亡診断書、非診療中であれば死体検案書を交付することになっており、診療中であれば死体を診ることなく無制限に死亡診断書が交付できるようになっていた。
    この旧医師法の制定当時は寿命も短く、急性疾患がほとんどであり、慢性疾患は稀であった。治療法も限られていたため「診療中」の患者はまさに生きるか死ぬかの状態であり、1人の人がいくつも疾患を持っていることは少なかった。従って診察後に患者が自宅で死亡しても、死因の判断は比較的容易であったし、「診察」以外の様々な検査ができる技術も環境もなかった。

    残り2,256文字あります

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