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抗精神病薬とアドレナリン

No.4916 (2018年07月14日発行) P.46

花澤朋樹 (埼玉医科大学病院救急科,救急センター・中毒センター/富士見病院)

上條吉人 (埼玉医科大学病院救急科,救急センター・中毒センター教授)

登録日: 2018-07-13

最終更新日: 2018-07-10

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  • 抗精神病薬の多くはα1受容体遮断作用を持つため,抗精神病薬を内服している患者にアドレナリンを投与すると,β1・β2受容体刺激作用が優位となり,「アドレナリン反転」と表現される降圧作用が出現する危険性がある

    アドレナリンは心肺蘇生やアナフィラキシー,重症気管支喘息発作で使用されるが,アドレナリン反転を生じる可能性のある患者では,アドレナリンの代替薬を模索することになる

    アドレナリン反転という現象自体のエビデンスが不足していること,代替薬の有効性に関するエビデンスが不足していることから,生命を脅かし一刻を争う病態では,抗精神病薬を内服している患者へのアドレナリン投与は避けるべきではない

    1. 抗精神病薬とアドレナリン併用が禁忌とされてきた理由

    抗精神病薬は統合失調症やせん妄の治療などに広く用いられ,精神科のみならず内科でも処方される機会が多い。また,アドレナリンは心肺蘇生時やアナフィラキシー,重症気管支喘息発作の治療などに使用され,救急の現場で投与される機会の多い薬剤である。

    以前から,抗精神病薬とアドレナリンの併用は,相互作用により血圧低下を引き起こす可能性があるため,いかなる病態においても禁忌とされていた。実際,わが国の抗精神病薬の添付文書にはアドレナリンが,アドレナリンの添付文書にはブチロフェノン系,フェノチアジン系,イミノジベンジル系,ゾテピン,リスペリドンといった抗精神病薬が病態にかかわらず「併用禁忌」として挙げられていた。しかし,このほど(2018年3月15日)厚生労働省の薬事・食品衛生審議会において学会の要望や国内外のガイドラインを反映し,アナフィラキシーショックに限り「併用禁忌」の解除が決定され,「併用注意」という表現に添付文章を変更するよう,各製薬企業に指示されることとなった。ただ残念なことに,アナフィラキシーショック以外の病態においては依然,「併用禁忌」である。

    1 アドレナリンの作用

    アドレナリン,ノルアドレナリン,ドパミン,ドブタミン,イソプロテレノールなどのカテコールアミンは,交感神経受容体を刺激し,心血管作動薬として効果を発揮する。交感神経受容体にはαとβの2種類がある。α1受容体刺激は,細動脈平滑筋収縮作用を持ち,血行動態上は体血管抵抗増加に作用する。β1受容体刺激は,心収縮力増加(陽性変力)作用と心拍数増加(陽性変時)作用を持つ。β2受容体刺激は,細動脈平滑筋弛緩,静脈平滑筋弛緩作用を持ち,血行動態上は体血管抵抗減弱に作用し,さらに気管支平滑筋弛緩作用を持つ。

    それぞれの薬剤で各受容体への作用の仕方が異なるため,病態に応じた使いわけがなされる。アドレナリンはα1・β1・β2受容体刺激作用,ノルアドレナリンはα1・β1受容体刺激作用(β2受容体は刺激しない)を有する。ドパミンはα1・β1受容体に加えて,ドパミンに特異的なD1受容体を刺激,ドブタミンはβ1受容体を選択的に刺激する(陽性変力作用が主体)が,弱いα1作用も有する。また,イソプロテレノールはβ1受容体の選択的刺激作用(陽性変時作用が主体)を有する。

    2 抗精神病薬の作用

    抗精神病薬の多くはα1受容体遮断作用を持つ。なお,薬剤ごとにα1受容体遮断作用の強さが異なるとされている。たとえば,同じ定型抗精神病薬でも,フェノチアジン系(クロルプロマジン,レボメプロマジンなど)は比較的強いα1受容体遮断作用を持つが,ブチロフェノン系(ハロペリドールなど)はα1受容体遮断作用がないか,弱いとされる。さらに,非定型抗精神病薬であるSDA(serotonin-dopamine antagonist antipsychotics,リスペリドン,ブロナンセリン,ペロスピロンなど)やMARTA(multi-acting receptor-targeted antipsychotics,クエチアピン,オランザピンなど)はα1受容体遮断作用が比較的弱いとされる。

    3 アドレナリン反転

    抗精神病薬における薬剤ごとの特徴はあるにせよ,一般的には,抗精神病薬の投与によりα1受容体が遮断された状態でアドレナリンが投与されると,β1・β2受容体刺激作用が優位となって,期待された昇圧作用ではなく,むしろ降圧作用が出現する可能性があることが指摘されている。このような現象を「アドレナリン反転」(adrenaline reversal)という。

    アドレナリン反転に関する報告は,フェノチアジン系抗精神病薬であるクロルプロマジンとアドレナリンの相互作用に関するものがほとんどである。たとえば,Fosterら1)は,ヒトを対象とした研究で,経動脈的にアドレナリンを投与し,経動脈的または経静脈的にクロルプロマジンを投与した際の,腕の血管の血流量を測定した。その結果,経動脈的にクロルプロマジンを投与したときはアドレナリンの血管収縮作用が減弱し,経静脈的にクロルプロマジンを投与したときはアドレナリンの血管収縮作用が反転し血管拡張作用をもたらしたと報告している。

    また,Higuchiら2)は,ラットを対象とした研究で,クロルプロマジンを腹腔内注射した後にアドレナリンを腹腔内注射すると,アドレナリンの用量に依存して著明な血圧低下と頻脈を生じたが,クロルプロマジンと非選択的β遮断薬であるプロプラノロールを投与した後にアドレナリンを投与すると,軽度の血圧上昇を認めるのみで血圧低下を生じなかったと報告している。この結果は,アドレナリンとクロルプロマジンの併用で生じる血圧低下がβ受容体刺激作用によって起こることを示唆するものであった。

    しかし現状で,アドレナリン反転に関する報告は少ない上,動物実験によるものがほとんどであり,ヒトでの研究は十分に進んでいない。

    4 海外では「併用注意」

    前述の通り,2018年3月,わが国でアナフィラキシーショックの場合に限り抗精神病薬とアドレナリンの「併用禁忌」が解除され「併用注意」となった。しかしそれでもなお,抗精神病薬とアドレナリンの併用に関して日本と海外とでは随分な解釈の乖離が生じている。

    海外におけるアドレナリンの添付文書にはクロルプロマジンとの「併用注意」という記載はあるものの,わが国のような「併用禁忌」にまで踏み込んだ記載はない。同様に,海外のクロルプロマジンの添付文書にはアドレナリンとの「併用注意」の記載はある一方で,海外のレボメプロマジン,ハロペリドール,リスペリドン,クエチアピンなどの添付文書には,わが国では「併用禁忌」に挙げられているアドレナリンを「併用注意」にすら挙げていない。なぜ,わが国ではこれらの薬剤の併用を厳しく制限することとなったのか,その経緯は不明である。

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