編集責任者: | 花岡正幸(信州大学医学部内科学第一教室教授) |
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編集事務局: | 牛木淳人(信州大学医学部内科学第一教室/信州大学医学部附属病院医学情報部准教授) |
判型: | B5判 |
頁数: | 248頁 |
装丁: | 2色部分カラー |
発行日: | 2020年12月15日 |
ISBN: | 978-4-7849-5844-3 |
版数: | 第1版 |
付録: | 無料の電子版が付属(巻末のシリアルコードを登録すると、本書の全ページを閲覧できます) |
Ⅰ 抗悪性腫瘍薬(細胞障害性抗癌薬)
Case1 化学療法10コース目で発症したoxaliplatinによる薬剤性間質性肺炎1
Case2 同時投与された抗悪性腫瘍薬の中でoxaliplatinが被疑薬と考えられた薬剤性間質性肺炎
Case3 Cyclophosphamideとmethotrexateの併用により発症した薬剤性間質性肺炎
Case4 特発性肺線維症に合併したS-1による薬剤性間質性肺炎
Case5 複数の抗悪性腫瘍薬が被疑薬と考えられた薬剤性間質性肺炎
Case6 ステロイドパルス療法のみで改善したamrubicinによる薬剤性間質性肺炎
Case7 同時投与された抗悪性腫瘍薬の中でfluorouracilが被疑薬と考えられた薬剤性間質性肺炎
Case8 ステロイド投与後も発熱が遷延したcarboplatinとpaclitaxelによる薬剤性間質性肺炎
Ⅱ 抗悪性腫瘍薬(分子標的治療薬)
Case9 投与開始から4カ月後に発症したosimertinibによる薬剤性間質性肺炎
Case10 休薬後も増悪したosimertinibによる薬剤性間質性肺炎
Case11 同時投与された抗悪性腫瘍薬の中でpanitumumabが被疑薬と考えられた薬剤性間質性肺炎
Case12 投与開始から11カ月後に発症したcetuximab併用抗悪性腫瘍薬による薬剤性間質性肺炎
Case13 長期間の薬剤中止により改善を認め,再投与が可能となったeverolimusによる薬剤性間質性肺炎
Case14 低酸素血症をきたしたeverolimusによる薬剤性間質性肺炎
Case15 休薬後も増悪したeverolimusによる薬剤性間質性肺炎
Case16 ステロイドによる治療を要したeverolimusによる薬剤性間質性肺炎
Case17 再投与により再発症したeverolimusによる薬剤性間質性肺炎
Case18 口内炎による休薬後の再投与で発症したeverolimusによる薬剤性間質性肺炎
Case19 Everolimusに続いて投与されたtemsirolimusによる薬剤性間質性肺炎
Case20 発熱と皮疹が先行したpembrolizumabによる薬剤性間質性肺炎
Case21 Pseudo-progressionとの鑑別を要したnivolumabによる薬剤性間質性肺炎
Ⅲ 漢方薬
Case22 偶発的な再投与により再発症した柴胡加竜骨牡蛎湯による薬剤性間質性肺炎
Case23 半夏厚朴湯から柴胡加竜骨牡蛎湯へ変更後に発症した薬剤性間質性肺炎
Case24 複数投与された漢方薬の中で柴胡加竜骨牡蛎湯が被疑薬と考えられた薬剤性間質性肺炎
Case25 重篤な呼吸不全を呈した防風通聖散による薬剤性間質性肺炎
Case26 詳細な問診により診断した防風通聖散による薬剤性間質性肺炎
Case27 気管支肺胞洗浄液のDLSTが陽性となった二朮湯による薬剤性間質性肺炎
Case28 六君子湯および十全大補湯が関与した抗ARS抗体陽性間質性肺炎
Case29 重篤な呼吸不全を呈した乙字湯による薬剤性間質性肺炎
Case30 急性呼吸窮(促)迫症候群を発症した柴苓湯による薬剤性間質性肺炎
Ⅳ 関節リウマチ治療薬
Case31 臨床経過や検査所見より被疑薬をmethotrexateと推定した薬剤性間質性肺炎
Case32 Methotrexateに併用したinfliximabによる薬剤性間質性肺炎
Case33 Methotrexateによる薬剤性間質性肺炎とリンパ増殖性疾患の合併
Ⅴ NSAIDs
Case34 Quercus salicina extractと併用したloxoprofenによる薬剤性急性好酸球性肺炎
Case35 多形滲出性紅斑を合併したacetaminophenによる薬剤性急性好酸球性肺炎
Ⅵ その他の薬剤
Case36 尿路感染症に対して処方されたlevofloxacinによる薬剤性間質性肺炎
Case37 潰瘍性大腸炎による間質性肺炎との鑑別を要したmesalazineによる薬剤性間質性肺炎
Case38 ステロイド漸減中に再燃したamiodaroneによる薬剤性間質性肺炎
薬剤性肺障害は,「薬剤を投与中に起きた呼吸器系の障害の中で,薬剤と関連するもの」と定義されます。近年,抗悪性腫瘍薬,生物学的製剤,分子標的薬など新薬の上市が相次ぎ,それにつれて薬剤性肺障害の報告が増加しています。特に,日本人では,びまん性肺胞傷害(diffuse alveolar damage:DAD)パターンの薬剤性肺障害が多いとされ,生命を脅かす重篤な副作用に位置づけられています。さらに,最近ではmTOR阻害薬や免疫チェックポイント阻害薬にみられるような,新たな病態の薬剤性肺障害も出現してきました。
このように薬剤性肺障害は,発症頻度が高く重症化もありうる有害事象で,被疑薬の再投与は基本的に禁忌となる臨床上重要な病態でありながら,診断法や治療法の開発は取り残されたままです。最大の理由は,薬剤性肺障害の発症の予測が難しく,症例を対象にした大規模臨床研究や無作為臨床試験が不可能なためです。よって,個々の発症例から学び,以後の診療に活かすという作業がきわめて重要になってきます。
長野県では,私が代表世話人となり,2010年に「信州薬剤性肺障害研究会」を立ち上げました。症例検討と特別講演の2本立てで,薬剤性肺障害に対する理解と知見を深める活動の場としました。2019年の最終回(第12回)までの10年間に40症例以上の検討を行い,診断や治療に関する議論を重ねてきました。「症例から学ぶ薬剤性肺障害」は,「信州薬剤性肺障害研究会」で討議した症例のうちの38例をまとめたものです。本書では全体の体裁を統一し,図表を多用するとともに,平易な記述を心掛けました。
薬剤性肺障害は,薬剤を扱うすべての臨床医が遭遇する可能性のある疾患であり,肺に異常陰影の出現をみた場合,必ず鑑別しなければならない病態です。そして,早期に発見し治療に結びつけることで,重症化を防ぐことができます。薬剤を処方するあらゆる診療科の先生に本書を座右に置いていただき,診療にご活用いただけたらうれしく思います。
最後に,執筆にご協力いただいた信州大学医学部附属病院および長野県内関連病院の先生方と,刊行までお世話になった日本医事新報社の村上由佳氏に心より御礼申し上げます。
2020年11月
信州大学学術研究院医学系医学部内科学第一教室
花岡正幸