
❶ LDL-C低下療法百花繚乱時代に
脂質異常症は日常診療で高頻度に遭遇するcommon diseaseである。特に高LDLコレステロール(low-density lipoprotein cholesterol:LDL-C)血症は冠動脈疾患の重要なリスク因子であり,治療標的でもある。1989年のプラバスタチンの登場以降,いわゆるストロングスタチンが開発され,さらに近年ではエゼチミブ,プロ蛋白質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(proprotein convertase subtilisin/kexin type9:PCSK9)阻害薬,ベムペド酸などの非スタチン製剤も登場したことにより,LDL-C低下療法の選択肢は大きく広がった(表1)。一方で,多くの薬剤が登場したことにより,どのような患者に対してどの薬剤をどの程度使用するかという新たな課題も生じている。このようなLDL-C低下療法百花繚乱時代において,本稿がより適切なLDL-C低下療法を知って頂くきっかけとなれば幸いである。

❷ 高LDL-C血症に遭遇した場合にまずやるべきこと
高LDL-C血症に遭遇した場合にまずやるべきことは,ほかの疾患でもそうであるように,原発性・続発性の鑑別である。
原発性の高LDL-C血症においてきわめて重要なものとして,家族性高コレステロール血症(familial hypercholesterolemia:FH)が挙げられる。FHは,一般人口の300人に1人程度存在する比較的高頻度の疾患である。未治療の場合には高頻度に冠動脈疾患を発症するため,診断はきわめて重要である。未治療時のLDL-C値が180mg/dL以上の場合にはFHを疑う必要がある。日常診療で高頻度に認められるのは通常,ヘテロ接合体であり,LDL受容体やその関連分子であるアポリポ蛋白BないしPCSK9に病原性遺伝子変異を1つ有することで発症すると考えられている。
診断には,LDL-C値に加え,図1 1)に示す家族歴の聴取や身体所見の評価が重要である。また,遺伝学的検査は確定診断のみならず,リスク層別化にも有用であることから,実施を考慮すべきである。特に,LDL-C値が250mg/dL以上である場合には,FHを強く疑うべきである(図1)1)2)。なお,わが国におけるFHの診断率は,レセプトデータベース研究によるとわずか2.6%とされており4),ほとんどが未診断,あるいは不適切に診断されていると推定される。

LDL受容体やその関連分子の遺伝子に病的バリアントを2つ有するFHホモ接合体(指定難病)の場合には,小児期から著明な高LDL-C血症を呈するとともに,特徴的な皮膚黄色腫を認めることが知られており,そのような症例の診断・治療については,専門医に相談すべきである。また,遺伝学的検査やLDL受容体活性測定においてホモ接合体の確定診断(definite)が得られない場合でも,LDL-C値が370mg/dL以上,あるいは小児期より皮膚黄色腫が存在するなど,重度の高コレステロール血症の徴候を認め,薬物療法に抵抗性を示す場合には,ほぼ確定(probable)としてFHホモ接合体と診断される(表2)。


さて,LDL-C基礎値が不明な場合にはどのようにすればよいかであるが,実臨床においては,患者が既にスタチンなどのLDL-C低下療法下にあり,本人への病歴聴取だけではLDL-C基礎値が不明で,診断に苦慮することがある。そのような場合,筆者は患者本人に治療を開始した医療機関名を思い出して頂き,当該医療機関に診療情報の問い合わせを行う。または,患者本人に健康診断を受けた検査機関へ検査結果の再送付の手続きを行って頂くなどして,できるだけ確実かつ正確な方法でLDL-C基礎値を確認するようにしている。記録が古くて保存されていない,あるいは医療機関の閉鎖などに伴い,どうしても不明な場合には,治療内容にもよるが,治療下のLDL-C値を0.7で除することでLDL-C基礎値を推定する方法も研究上用いられている。たとえば,アトルバスタチン10mgで治療中の患者のLDL-C値が126mg/dLであれば,LDL-C基礎値は180mg/dLであると推定され,家族歴や身体所見によってFHと診断される可能性がある。ただし,患者の服薬コンプライアンスや薬物治療への反応性などを個別に勘案することが必要である。このような場合にこそ,遺伝学的検査が診断に有用である。
また,きわめてLDL-C値が高い(おおむね400mg/dL以上)状態であり,原発性の高LDL-C血症が疑われる場合には,前述のようにFHホモ接合体を疑うべきであるが,シトステロール血症と呼ばれる潜性(劣性)遺伝性疾患の可能性も考慮すべきである。FHホモ接合体とシトステロール血症は,著明な高LDL-C血症,腱黄色腫,早発性冠動脈疾患という三主徴を共通して有しており,両者の鑑別は時に困難である(図2)。しかし,シトステロール血症では,ステロール制限食によってLDL-C値の低下が認められることや,潜性遺伝形式であることから家族歴の聴取が鑑別に有用であること,さらにはエゼチミブがきわめて有効であることが鑑別の手がかりとなる。最終的には,遺伝学的検査が鑑別に有用である。指定難病の原発性脂質異常症を表3にまとめる。


一方で,続発性の高LDL-C血症の原因としては,甲状腺機能低下症,ネフローゼ症候群,糖尿病が挙げられ,これらの基礎疾患の適切な治療が必要となる。また,原発性と続発性の要因が混在する場合もあるため,高LDL-C血症の診療においては,原発性・続発性の両方の要因を考慮する必要がある。
❸ 高LDL-C血症に対する治療目標設定
(1) 一次予防例に対する高LDL-C管理目標値は,動脈硬化リスク別に設定する
60歳,男性。血圧は正常で,耐糖能異常も有さないものの,喫煙習慣を有し,高LDL-C血症(160mg/dL)および血清HDL-C 40mg/dLを呈している。
本例が一次予防例,すなわち脳心血管疾患未発症例であるとした場合,LDL-C管理目標値は,「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」によると120mg/dL未満となる(図3〜5)5)6)。重要な点として,比較的,動脈硬化性疾患のリスク因子の数は少なく感じるが,リスク予測(久山町スコア)では10年間の動脈硬化性疾患発症率は10%を超え,高リスク群となる。治療としては,高LDL-C血症に対する薬物療法と並行して禁煙指導を行い,LDL-C低下薬には,基本的に第一選択薬としてスタチンを選択する。LDL-C管理目標値が120mg/dL未満であるため,現状の160mg/dLから逆算し,25%以上の低下が得られる薬剤・用量を選択する。わが国では複数種類のスタチンが選択可能であるが,25%以上の低下をめざす場合には,基本的にはアトルバスタチン,ロスバスタチン,ピタバスタチンのいわゆるストロングスタチンの中から選択することとなる。

