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産褥期の静脈血栓塞栓症[私の治療]

No.5023 (2020年08月01日発行) P.43

森川 守 (北海道大学大学院医学研究院専門医学系部門生殖・発達医学分野産婦人科学教室准教授)

登録日: 2020-07-31

最終更新日: 2020-07-30

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  • 一般的に,産褥期は妊娠前ならびに妊娠中に比べ静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)を発症しやすい。分娩時の胎盤剥離後に起こりえる分娩後異常出血を回避するために,妊娠末期には凝固能を亢進し止血しやすくするメカニズムが働く。この凝固能亢進が過度に働くとVTEを発症しやすい。経腟分娩後に比べ帝王切開術後ではVTEを発症しやすく,緊急帝王切開術では選択的帝王切開術に比べさらにVTEを発症しやすい。特に分娩後48時間ないし72時間以内が最もVTEを発症しやすい。分娩後は妊娠の影響が減少するため,分娩からの期間が長くなるほどVTEの発症リスクは減少していく。しかし,分娩後6週間目までの産褥期では,非妊娠時よりもVTEの発症率が高いとされている。

    ▶診断のポイント

    既に意識を消失している場合や全身状態が不安定な場合には,VTEの診断よりも治療(初期対応)を優先し母体救命に努める。特に,深部静脈血栓症(DVT)よりも致死性疾患である肺血栓塞栓症(PTE)への対応を優先する。PTEでは,できるだけ早急に診断する。DVTでは早期になるべく速やかな診断を行う。

    【症状】

    DVTでは下腿の腫脹・浮腫,疼痛,色調変化などを,PTEでは突然の呼吸困難,胸痛などの特異的症状を確認する(急性PTEでは特異的症状を伴わない場合もある)。それらの症状からVTE発症を疑う場合には,医療面接などで現病歴,既往歴,家族歴,生活歴,VTEでは危険因子,PTEでは特徴的発症状況(安静解除直後の初回歩行時,など),などの情報収集を行う。

    【診察所見】

    DVTでは視診と触診の所見から急性期を疑い診断を進める。DVTは左下肢に発症することが多く,左右差があることも診断の補助となる。また,特異性は低いが,HomansテストやLoewenbergテストを行い,陽性ではDVTを疑う。PTEでは,頻呼吸や頻脈を高頻度に認め,ショックや低血圧を認めることもある。SpO2<90%では,PTEによる低酸素血症を疑う。

    【検査所見】

    DVTやPTEのスクリーニングでは,Dダイマー値の測定が行われる。しかし,妊娠中期から凝固系が亢進するため,妊婦や産褥婦のDダイマー値はDVTやPTEがなくても高値を示す場合が多い。医療面接や身体診察でDVTやPTEを強く疑う場合には,Dダイマー値は参考にとどめ,画像検査を行う。PTEでは,スクリーニング検査として胸部X線,心電図,動脈血ガス分析,経胸壁心エコー,血液生化学検査を行う。画像診断としては,DVTでは第一選択として非侵襲的な下肢静脈エコーを施行する。必要に応じて造影CTやMRI静脈造影を追加する。PTEでは,造影CTや肺動脈造影を行う。その際,DVTも同時に検索する。

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