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ダビガトラン+P糖蛋白質阻害薬[ドクターのための薬物相互作用とマネジメント(6)]

No.4698 (2014年05月10日発行) P.43

澤田康文 (‌東京大学大学院薬学系研究科 医薬品情報学講座教授)

玉木啓文 (NPO法人医薬品ライフタイム マネジメントセンター主任研究員)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-04-05

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  • サマリー

    近年開発された新規経口抗凝固薬のダビガトラン(プラザキサ1397904493)は,そのプロドラッグ体が薬物排出トランスポーターのP糖蛋白質に輸送されるため,消化管からの吸収が妨げられている。イトラコナゾール(イトリゾール1397904493など)やベラパミル(ワソラン1397904493など)などのP糖蛋白質を強く阻害する医薬品を併用した場合,プロドラッグ体の吸収が亢進し,ダビガトランの血中濃度が上昇することが報告されており,抗凝固作用が増強される可能性がある。イトラコナゾールの経口製剤は,特に強い阻害作用を示すため,ダビガトランと併用禁忌となっており,ほかのP糖蛋白質阻害薬についても,併用時にはダビガトランの減量を考慮する必要がある。大出血などの重篤な症状が起こる可能性もあるため,本相互作用には注意を要する。

    何が起こる?


    新規経口抗凝固薬のダビガトラン製剤の有効成分は,プロドラッグ体のダビガトランエテキシラートであり,体内に吸収された後にエステラーゼで速やかに分解され,活性を示すダビガトランとなる。ダビガトランは血液凝固カスケードの下流のトロンビンを直接阻害し,抗凝固作用を示す。
    ダビガトランとP糖蛋白質を阻害するベラパミルやキニジン(硫酸キニジン),アミオダロン(アンカロン1397904493など)を併用した場合,ダビガトランの血中濃度が上昇することが報告されている。ダビガトランの血中濃度に与える影響が大きいと推測されるため,イトラコナゾールの経口製剤は併用禁忌とされている。また,そのほかのP糖蛋白質阻害薬(ベラパミル,アミオダロン,キニジン,タクロリムス,シクロスポリン,リトナビル,ネルフィナビル,サキナビル,クラリスロマイシンなど)の経口製剤も併用注意となっている。これらの併用禁忌・注意薬について,ダビガトランとの併用試験による相互作用の検討結果を以下に示した。

    ❖併用禁忌薬(イトラコナゾール経口製剤)

    イトラコナゾールの経口製剤とダビガトランを併用した臨床試験はこれまでに実施されていないが,イトラコナゾールの類薬で,強いP糖蛋白質阻害作用を示すケトコナゾール(経口製剤はわが国未発売)を併用し,ダビガトランの体内動態への影響を検討した臨床試験が実施されている1)
    ダビガトラン150mgとケトコナゾール400mgをそれぞれ同時に単回経口投与した臨床試験では,ダビガトランの最高血中濃度(Cmax )は2.35倍,血中濃度─時間曲線下面積(AUC)0-∞ は2.37倍に上昇している(表1)。またケトコナゾール400mgを反復投与し,最終投与時にダビガトラン150mgを同時投与した場合でもCmax,AUC0-∞が単回投与時と同程度(2.49倍および2.52倍)に上昇することが示されている。一方,総ダビガトランの消失半減期 (t1/2)は単回投与でも反復投与でも延長しなかった(単回:非併用7.31時間vs. 併用7.17時間)。
    類薬のケトコナゾールとの併用試験により強い相互作用が認められたことから,同様に強いP糖蛋白質阻害作用を示すイトラコナゾールの経口製剤を併用した場合でも,ダビガトランの血中濃度が2~2.5倍程度に上昇する恐れがある。経口抗凝固薬は2倍程度の血中濃度の上昇でも,出血などの副作用が増加する可能性があるため,併用禁忌に設定されている。

    ❖併用注意となっているP糖蛋白質阻害薬

    ベラパミル,アミオダロン,キニジン,クラリスロマイシンなどのP糖蛋白質を阻害する医薬品は,ダビガトランと併用注意となっている。健康成人を対象とした臨床試験により,これらの医薬品をダビガトランと併用した場合,総ダビガトラン(ダビガトランと同等の抗凝固作用を示すグルクロン酸抱合体の総和)のAUCとCmax が1.5~2.5倍程度に上昇することが示されている(表1)1)2)

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