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次の世代へのプレゼント[炉辺閑話]

No.4889 (2018年01月06日発行) P.84

井戸田一朗 (しらかば診療所院長)

登録日: 2018-01-05

最終更新日: 2017-12-22

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私は感染症を専門とし、開業医としてHIV感染症を中心にセクシュアル・マイノリティーへの医療に携わっており、私自身ゲイ男性です。

先生方は、「90-90-90」という、グローバルな疾病対策目標について、お聞きになったことはおありでしょうか。これは2014年にUNAIDS(国連エイズ合同計画)とWHO(世界保健機関)が提唱した保健戦略で、2020年までに90%のHIV陽性者がHIV検査を受け、その結果を知り、そのうち90%が継続した治療を受け、そのうち90%で十分にウイルスが抑制されることにより、2030年までに世界のHIVの流行を終結させよう、という堅固なエビデンスと将来予測モデルに基づいた、野心的な目標です。

感染症対策は、一国のみでは不可能であり、各国で足並みを揃える必要があります。もちろん、わが国もUNAIDSとWHOの加盟国であり、我々医療者は、本目標を達成する上での重要な役割を既に期待されています。ちなみに、わが国における達成率はそれぞれ、85.6-82.8-99.1%と推測されており〔Iwamoto A, et al:PLoS One. 2017;12(3):e0174360〕、HIV検査による早期発見とケアへの橋渡しは改善の余地があります。

たとえば、性感染症やウイルス性肝炎を診断した際、口腔カンジダや帯状疱疹など免疫不全の存在を疑う疾患を経験した際、検査データや臨床経過をご覧になって、何かおかしい、という違和感があった際、私たちは患者さんにHIV検査を勧め実施しているでしょうか? 私は次の世代にこの感染症を残したくないと思っています。この感染症を恐れ、苦しむのは、私たちの世代で終わりにしたいと思うのです。それは、我々から次世代への大きなプレゼントになるのではないでしょうか。

私たちゲイの多くは直接次世代を育てることはしませんが、こういう形でも次世代を育み支えることはできると、50の声を聞くようになって、より思うようになりました。微生物の薬剤耐性(Antimicrobial Resistance:AMR)対策も同様で、手洗い等により伝播を防ぎ、風邪等の患者さんへの不必要な抗菌薬の処方を慎むことで、有効な抗菌薬を次の世代に残すことは、同じ大きなプレゼントに思えます。

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