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肝臓医の戦い Veni, vidi, vici.[炉辺閑話]

No.4889 (2018年01月06日発行) P.77

小池和彦 (東京大学消化器内科教授・第114回日本内科学会総会・講演会会長)

登録日: 2018-01-05

最終更新日: 2017-12-21

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肝臓病診療に大きな動きがある。C型肝炎ウイルス(HCV)の発見(1989年)から四半世紀が近づいた2011年頃から、DAA(direct-acting antiviral)と呼ばれる特異的な抗HCV薬が上市されてきたが、2014年以降、DAAはHCVだけでなくインターフェロン治療をも駆逐してしまったのである。飲み薬を8~12週間服用するだけで、95%を超える高率でHCVを駆除できる。患者さんの病気が治り、笑顔で帰宅されるのを見ることが、医者にとっては最大の喜びである。この数年の肝臓医は幸福な日々を送ったと言える。

しかし、「HCV感染の治癒」は慢性肝炎や肝硬変の治癒とイコールではない。HCV駆除によって肝癌発生リスクは低減されるが、ゼロにはならない。肝線維化が進んでいればリスクは高止まりする。もとより、HCV駆除によって肝硬変が正常な肝臓まで戻るというデータは存在しない。

一方、肝癌治療も大きく進歩した。肝切除術、経皮的肝癌焼灼術の進歩が著しく、肝動脈塞栓術、分子標的薬、放射線治療などを併せた集学的治療で、5年生存率は62~72%となっている(東大消化器内科データによる)。わが国における肝癌死亡数は2005年がピーク、肝癌発生数も2009年がピークで減少基調となっている。今、肝臓医は思う。肝臓医は勝ったと。でも、本当にそうなのか?C型肝炎による肝癌は減少しているが、HBVもHCVもいない肝癌、「非B非C型肝癌」が、実は、増加を続けている。この20年間で5倍以上である。その主体は、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)という代謝性の肝疾患である。すなわち、HBVやHCVによる「外因性の肝疾患」に代わって、「内因性の肝疾患」で命を落とす時代に入ったのである。

題名内のラテン語は、ユリウス・カエサルがローマ内戦時にポントス王ファルナケス2世とのゼラの戦いに勝利した際にローマの友人へと書き送った言葉で、日本語では「来た、見た、勝った」と訳される。しかし、カエサルの本当の戦いは、その後にやってくる。そして、ローマで内なる敵に殺された。

C型肝炎を克服しても、新たに内なる敵が現れてきている。肝臓医の大きな使命は続いていくのである。

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