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医療AIの進歩[炉辺閑話]

No.4889 (2018年01月06日発行) P.67

村山雄一 (東京慈恵会医科大学脳神経外科主任教授)

登録日: 2018-01-04

最終更新日: 2017-12-21

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医学は日々進歩しており、多忙な診療を行いながら膨大な情報量の最新知識をアップデートすることが求められます。また、医療安全の質を高めるために医療安全、Faculty developmentなどの様々な講習会への出席も義務づけられ、果たして限られた時間の中で我々医師の情報処理能力は飛躍的に向上することは可能なのか、と思うこともしばしばです。国からは医療費の削減を求められ、限られたリソースの中で質の高い医療を実現しなくてはなりません。医療における過ちは許されず、社会から厳しい評価を下されることになります。

こうした医療を取り巻く社会環境の中で、大きく期待されるものが医療ICTやAIの進歩であり、これらの技術革新は眼を見張るものがあります。医療ICTの進歩では画像診断などの分野で実用化が進みつつあり、我々も脳卒中の分野では匿名化された画像や神経症状などの患者情報をクラウド上で管理し、緊急時の治療に役立てています。また、ビッグデータを基にしたAI診断の確かさは、それを利用すれば研修医でもエキスパート以上の診断を下せるようになるでしょう。

私の専門である脳血管障害の診療で、最も判断が難しい疾患のひとつに未破裂脳動脈瘤の治療方針の決定があります。偶然脳ドックなどで発見されたまったく無症状の動脈瘤は100人当たり1~3%の頻度で保有すると言われており、年間破裂率は1%程度と低く、多くの患者さんは治療の必要性は低いと考えられます。しかしながら、一度破裂すれば約半数の患者さんは死亡するか重篤な合併症が残るため、見つかった動脈瘤はすべて治療すべき、と考える専門家もまだまだ多いのが現状です。未破裂脳動脈瘤に対する治療のリスクと経過観察のリスクの妥当性を問う前向きランダム化試験は実現しておりませんが、過去の膨大なデータをAIで解析すれば、個々の患者さんへの最適な治療方針の提供は可能となるでしょう。

では、これからの医療はAIがすべて決定してくれるのでしょうか。もちろん答えは否です。なぜなら、これらの解析は現時点での最良の治療を基にした解析であり、我々に課せられたミッションは、より良い治療技術を生み出すイノベーションだからです。ほとんどリスクのない新たな治療が開発されれば、これまでの治療の妥当性を議論するまでもなく、小さな危険の芽を摘み取ることが正当化されるようになるかもしれません。

こうした医療AIが進歩した次世代医療では、今まで以上に目の前の患者さんにきちんと人間らしく説明できるコミュニケーションスキルが求められるでしょうし、それが医師の価値を決定するようになるでしょう。次世代の医師たちはAIを上手に使って(使われるのではなく)知識のアップデートや講習会に忙殺されず、人間らしく患者さんと向き合う時間が取れるようになったらいいですね。

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