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Wanted !![炉辺閑話]

No.4889 (2018年01月06日発行) P.66

大友 邦 (国際医療福祉大学学長)

登録日: 2018-01-04

最終更新日: 2017-12-21

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ホームで電車を待つ間、線路の向こう側に並ぶ広告を眺めていて、広告の種類がそれほど多くはない、むしろ特定の業種に限られていることに気がついた。特定の業種とは、病院・クリニック・高齢者用施設を中心とした医療福祉関係、エステなどの美容関係、寺社などの宗教法人、そして中学・高校・大学を取り混ぜた学校法人。車内広告しかり。実に多くの大学が学生募集の広告を出している。学部・定員の詳細を記載した「いかにも」というスタイルは少数で、「大学」とは思えない、高いデザイン性で若者の感性に訴えるものが主流となっている。個人的にはJR上野駅構内で遭遇した近畿大学のポスターが一番かな、と思っている。近隣の錚々たる美術館の広告と比べてもまったく遜色がない、素晴らしい「作品」である。

少子高齢化により若年人口が減少する一方で、大学進学率は頭打ちのため、受験者・入学者の獲得競争は厳しさを増す。大学側は広報に注力するだけではなく、AO受験や指定校推薦による入学者の囲い込みに奔走することになる。18歳で入学して以来、61歳で早期退職するまでの大部分の年月を、学生募集をほとんど意識することのない大学に身を置いた後、私学に異動した私にとって、学生獲得競争は紛れもない「カルチャーショック」であった。

大学同士が切磋琢磨して教育環境を充実させ、教員の資質向上に努めるのであれば、競争にもプラスの面はある。しかし、受験倍率が低下する中で定員充足のために入学者の資質を犠牲にするとしたら、本末転倒と言われても反論は難しい。私立大学における定員未充足校の割合が4割を超える現状で、それぞれの大学は、社会に有為な人材を輩出するという原点に立ち戻り、知恵を絞ることが求められている。入学者の多くが国家資格取得をめざす医療福祉系の大学・学部では、国家試験合格率を意識せざるをえないが、その傾向と対策のみに終始せず、これからの医療福祉を国内外で担い発展させる人材育成のための教育を、歯を食いしばって維持・発展させる必要がある。

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