日本医学ジャーナリスト協会は16日、昨年小社より出版された桑島巖氏の著書『赤い罠―ディオバン臨床研究不正事件』を2017年度の日本医学ジャーナリスト協会賞大賞(書籍部門)に選んだと発表した。
同賞は日本医学ジャーナリスト協会が質の高い医学・医療ジャーナリズムが日本に根付くことを目指して2012年に創設した。
『赤い罠』は、高血圧治療薬に関わる臨床研究の論文不正に関与した疑いで製薬会社の元社員が逮捕された“ディオバン臨床研究不正事件”について、論文発表当初から疑義を抱き、「日本医事新報」誌上等で問題点を指摘してきた桑島氏が事件の真相に迫ったノンフィクション。
受賞の知らせを受け桑島氏は本誌の取材に応じ、関係者への感謝と臨床研究を批判的に吟味することの重要性を述べた。桑島氏の喜びの声は以下の通り。
まず、日本医事新報社にこの本を出版してくれたことに感謝します。編集部の協力なしに、この本を出版することはできませんでした。
事件の真相解明に関しては、何より由井芳樹先生がディオバン臨床研究の血圧値の統計的異質性をランセット誌で指摘したことが大きな糸口になりました。そして、その後、興梠貴英先生がサブ解析の異常数値を指摘し、これを受けて日本循環器学会の当時の代表理事、永井良三先生が積極的に真相解明に向けて動いてくれたことも大きかった。さらに、日本医師会副会長の今村聡先生が問題の重大性を認識し、対応してくれたことも大きく、国が真相解明に乗り出すきっかけとなりました。
この事件が残した教訓はたくさんあり、臨床研究において大きな転換点になったといえるでしょう。臨床研究は企業に寄り添ってはならないし、研究者も業績づくりや寄附金集めという不純な動機で行ってはならない。臨床研究を行うにあたって、真実の追究という知的好奇心が最も重要であることを教えてくれました。
また実務上も、インフラの整備、研究者の臨床研究の知識、生物統計学者の必要性、そして、利益相反の管理の重要性が明らかとなりました。事件を受けて、臨床研究を規制する臨床研究法が成立しましたが、この事件のようなことは国も臨床医も見過ごすことができませんから、やむを得ないと思います。ただ、規制によって研究ががんじがらめになって、研究者が萎縮するようなことにはならないでほしい。
(まだ本書を読んでいない方に対して)臨床研究に携わるすべての医療関係者に読んでもらいたい。過去、日本においてこういう問題があり裁判にまで至った事実、そして、いい加減な気持ちで臨床研究を行ってはいけないんだということを知ってもらい、今後の教訓としてほしい。
臨床の先生方にもこの本を通じて、臨床研究について1つの意見に従うのではなく、批判的に吟味することの重要性を知ってもらいたいと思います。