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(1)乳幼児の喘鳴を鑑別するために必要な病態の知識 [特集:乳幼児の喘鳴を鑑別する]

No.4776 (2015年11月07日発行) P.20

西田光宏 (浜松医療センター小児科科長)

吉原重美 (獨協医科大学病院小児科准教授)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-02-09

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  • 小児科医にとって,乳幼児喘鳴の鑑別は,ピットフォールも少なくなく,日常診療に不可欠な気の抜けない仕事の1つである

    日常診療で経験する2歳未満の急性喘鳴の代表は,RSウイルスによる急性細気管支炎である。幼児期の急性喘鳴の代表は,最近迅速診断が可能となったヒトメタニューモウイルス感染症であり,ピットフォールとなりやすいのが気道異物である

    乳幼児期の反復喘鳴の原因は,乳児喘息を除くと,気管・気管支軟化症と胃食道逆流症(GERD),そして心不全などがある。それより頻度は低いが,呼吸管理をした早産・低出生体重児の慢性肺疾患や血管輪などが鑑別となる

    乳児喘息にはいくつかのフェノタイプがある。その中で多くを占めるウイルス感染後の反復喘鳴(反応性気道疾患)とアトピー型喘息を区別することは後方視的には可能であるが,ウイルス感染後の反復喘鳴の一部がアトピー型喘息に移行することがあるので,前方視的には困難である

    コントロール評価と治療のステップダウンを意識しながら,反復喘鳴を慎重に経過観察することが,ウイルス感染後の反復喘鳴とアトピー型喘息を鑑別するために肝要である

    1. 乳幼児の喘鳴

    筆者が所属する浜松医療センターは地域の急性期基幹病院で,2014年の小児科入院患者数は717名であった。そのうち気管支喘息を含む呼吸器疾患は254名(35.4%)であった。入院した児の大半は5歳以下の乳幼児であり,喘鳴を伴う呼吸困難に対する酸素吸入や経口摂取不良と脱水に対する輸液目的で入院した。
    入院した児の喘鳴は,初回喘鳴(急性喘鳴)と過去に既往のある反復喘鳴が混在している。筆者は経験の浅い担当医師に,喘鳴を聴取した場合は,吸気性喘鳴と呼気性喘鳴を区別すること,乳児の呼吸器は構造的および生理学的に狭窄が進行しやすく呼吸不全に陥りやすいこと,反復喘鳴の場合は,呼吸器疾患以外にも喘鳴をきたす疾患があるので鑑別が必要であること,などを指導している。それにもかかわらず,後日,異物や血管輪が喘鳴の原因であることが判明するなど,乳幼児の喘鳴を聴取し,鑑別するには,ピットフォールも少なくない。
    小児科医にとって,乳幼児喘鳴の鑑別は,日常診療に不可欠な気の抜けない仕事の1つであると言える。

    1 急性喘鳴の鑑別疾患

    小児における喘鳴の鑑別疾患は急性または反復性,そして年齢により異なる(表1)1)
    日常診療で経験する2歳未満の急性喘鳴の代表は,RSウイルスによる急性細気管支炎である。当センター小児科における2014年のRSウイルス抗原が検出された下気道疾患の入院患者数は,乳児の急性細気管支炎を主体に71名であった。幼児期の急性喘鳴の代表は,最近迅速診断が可能となったヒトメタニューモウイルス(human metapneumovirus:hMPV)感染症である。当センター周辺では,15年の春先から幼児を中心に流行があり,夏までに32名が下気道疾患で入院している。また,乳幼児の急性喘鳴でピットフォールとなりやすいのが気道異物である。

    (1)RSウイルスによる急性細気管支炎

    急性細気管支炎は,主に生後2歳未満,特に6カ月未満の乳児が罹患する呼吸器疾患である。下気道疾患の児を対象に迅速診断を実施した結果では,RSウイルス感染症は冬に多いが,夏でも散見される。乳児の細気管支に炎症が起こり,粘膜腫脹と分泌過多により気道狭窄を生じる。最初に軽い鼻水,咳などのかぜ症状が2~3日続いた後に,下気道に炎症が及ぶと呼気性喘鳴が聴取されるようになる。気道狭窄が進行すると低酸素血症から呼吸不全になることもある。

    (2)hMPV感染症

    hMPVは,RSウイルスと同様にパラミクソウイルスに属する。罹患年齢はRSウイルス感染症の乳児より少し高い2~4歳に多い。主症状は,発熱と咳嗽であるが,呼気性喘鳴を伴うことも少なくない。

    (3)気道異物

    乳幼児期の「急性喘鳴」の原因として,気道異物が重要である。気道異物の位置により喘鳴の性質は異なる。気管支に異物が存在する場合は,吸気性・呼気性喘鳴を呈することが多く,狭窄部の末梢領域で換気が低下して呼吸音が減弱する。鑑別にあたっては,繰り返しの詳細な問診と聴診による呼吸音の左右差の確認が重要である。

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