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カルテの押印と署名の優劣

No.4684 (2014年02月01日発行) P.100

竹中郁夫 (弁護士)

登録日: 2014-02-01

最終更新日: 2017-09-27

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【Q】

当院では紙カルテを使用しており,医師記載の最後に印鑑を押すか自筆サインを記載するようにしていたが,先日,日本医療機能評価機構から印鑑は本人以外でも押せるので不適,自筆サインがよいと指導を受けた。押印と署名のどちらがよいのか。
(兵庫県 T)

【A】

法的には「記名押印又は署名」で良しとなっていても,できる限り疑念の生じないように単なる押印でなく署名を励行すべきであろう

医師法施行規則第20条は「医師は,その交付する死亡診断書又は死体検案書に,次に掲げる事項を記載し,記名押印又は署名しなければならない(後略)」と定め,同規則第21条は「医師は,患者に交付する処方せんに,患者の氏名,年齢,薬名,分量,用法,用量,発行の年月日,使用期間及び病院若しくは診療所の名称および所在地又は医師の住所を記載し,記名押印又は署名しなければならない」と定めている。

医師法施行規則が,診療録に関係して作成するこれら重要文書について,このように「記名押印又は署名」しなければならないという考え方を示していることから,他の記載についても同様の考え方をとれば,「記名押印又は署名」で責任の所在や作成の真正を証明するに十分であるとも考えられる。

ところで,民事訴訟法第228条1項は「文書は,その成立が真正であることを証明しなければならない」と定めた上で,「文書は,その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認めるべきときは,真正に成立した公文書と推定する」(2項),「公文書の成立の真否について疑いがあるときは,裁判所は,職権で,当該官庁又は公署に照会をすることができる」(3項)と定め,「私文書は,本人又はその代理人の署名又は押印があるときは,真正に成立したものと推定する」(4項)と定めている。

この民事訴訟法の定めは,あくまで訴訟手続についての定めであるが,カルテが医師法で作成が義務づけられ(同法第24条),非常に高い公証性を期待され,成立の真正もしっかりと確保することを要請される文書であることを考慮すれば,日本医療機能評価機構の指導の通り,印鑑は預けておけば誰でも押せるという性質を持つことから,署名を行うことが望ましいと言えよう。

例えば,カルテ記載の真正性が争われた場合,記載を行うべき医師本人や医師事務作業補助者が記載したのでなく,記載権限のない者が押印した疑いが濃厚となれば,カルテ記載の真正性が疑わしい事態が生じる。このような危険性を考慮すれば,署名を励行することが適切ということになろう。

このように考えると,法的には「記名押印又は署名」で良しとなっていても,できる限り疑念の生じないように単なる押印でなく,署名を励行すべきと考えるそれなりの根拠はあると言ってよいだろう。

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